愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
バックヤードの案内の途中、ラウンジの前で、海外の紳士が早口の英語でフロントスタッフにまくし立てていた。スタッフの顔は青ざめている。

京介さんはすっと歩み寄り、澱みない英語で対応を引き継いだ。紳士が言葉に詰まると、今度は流暢なフランス語に切り替える。紳士の表情がみるみる和らぐのが、離れた場所からでも分かった。

◇

午後からは、接客の基礎研修が始まった。

「お辞儀の角度が浅い。あと五度深く」

言われた通りに直し、気まずさを埋めるように、私は口角を上げた。前の店で、何百回と作ってきた笑顔だ。

京介さんの目が、すっと冷えた。

「愛想笑いはいらない。ここに来るお客様が求めているのは、作られた笑顔じゃなく、本物の気配りだ」

「……はい、頑張ります」

「頑張りますじゃない。やり遂げます、だろう」

言葉に詰まった。

頑張ります、は私の口癖だ。そう言っておけば、結果が出なくても許してもらえる気がして、何度その言葉に逃げただろう。この人は、それを一言で見抜いた。

「……やり遂げます」

絞り出すと、京介さんは頷いた。

「見て覚えろ、とは言わない。だが、一度だけ見せる」

彼は来客役に向き直り、視線をまっすぐ合わせて一礼した。それだけで、空気が整う。声の調子も、間の取り方も、目を外すタイミングも、無駄が一つもない。

「……すごい」

「感心している暇があったら、真似ろ」
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