愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
新年を迎えた庭園は、静けさを取り戻していった。招待客が引けたのを見計らって、私は言った。

「ベンチまで、先に歩いてみてください」

京介さんは一瞬、黙った。それから、橋を避ける平らな道を、迷いなく歩き出した。一度も立ち止まらずにベンチの前へ着いて、振り返る。

「……練習した。お前が手すりを付けた夜に」

吹き出してしまった。

「何周、したんですか?」

「聞くな」

枝には、人工の雪がうっすらと積もっている。並んで腰を下ろすと、夜気が冷たい。私は、自分用に持ってきた膝掛けを彼の肩にかけた。

「寒そうだったので」

いつか彼が言った言葉を返すと、京介さんは小さく笑った。

「格好悪いところばかり、見せたな」

「庭園で迷うところも、壇上で手が震えるところも、疲れたと弱音を吐くところも。格好悪いところも、ちゃんと京介さんだって知れてよかったです」

彼は一瞬黙ってから、ふっと笑った。

「千紗。こっちへ」

京介さんの手が、私の胸元へ伸びる。『研修中』の小さなプレートに、指が触れた。

「日付が変わった。昨日付けで、研修は終了だ。教育係としての、最後の仕事だ」

入社初日、この名札は重たく胸で揺れていた。小さな金属板が外れる音が、夜の庭にかすかに響く。

「よくやり遂げた」
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