愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由

第七話 愛想のない彼が、私にだけ甘い理由

【京介side】

一月、第二週の月曜。

本社の朝会を終え、九時前にグランディールへ入った。本社での本務と、療養に入った総支配人の代行。その兼務にも、ようやく慣れてきた。

事務所では、千紗が資料を配っていた。名札の下のプレートは、もうない。小さな金属板が消えただけなのに、彼女の背筋は一段まっすぐに見える。

そんなことに気づく自分が、我ながら重症だと思う。

「最後に一件。九月、ご到着が遅れる結婚三十周年のご夫妻に、お部屋でのディナーをご用意した対応がありました。十二月に届いた礼状を機に、年末から姉妹ホテルにも試験共有していたところ、反響をいただいています。この事例を『現場提案シート』の第一号として、全店舗に共有します。提案者は、水無瀬」

「は、はい」

声が裏返っていた。俺は、表情を変えないまま続ける。

「数字ではなく、お客様の顔から始まる仕事を、全店舗に広げます。それが、これからの私の宿題です」

彼女は深く頭を下げた。ドアへ向かう途中、手が胸元の名札に伸びて空を掴む。

プレートを探す癖が、まだ抜けていないらしい。その仕草を、俺は目に焼き付けた。

すれ違いざま、千紗の頭に手を置きかけて止めた。職場だ。
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