愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
その週の終わり、フロントに紺のスーツ姿の女性が現れた。一瞬、誰か分からなかった。
「四宮紗英です。四宮ホールディングスの系列でも、現場提案シートを導入したくて」
差し出された名刺には、『新規事業担当 四宮紗英』とあった。
「……藤色じゃないんですね」
「令嬢の衣装は、脱いだの。改めてよろしくね、水無瀬さん」
差し出された手を、私は取った。
◇
日曜の夜。会長のお屋敷は、ホテルよりずっと静かだった。
「水無瀬千紗でございます。本日は、お招き頂き──」
「堅いな。京介の教育の賜物か」
畳に手をついた私に、会長は愉快そうに目を細めた。
食後、出された栗菓子に会長が笑う。
「こいつは昔から甘党でな。人には絶対に譲らん」
そう言われた京介さんは、黙って自分の皿を私の前へ差し出した。
「嫌なら、俺が食べる」
そのやり取りを見届けた会長は、湯呑みを置いてぽつりと言った。
「……伊集院千紗、悪くない響きだ」
京介さんが、むせた。
「じいちゃん。決めるのは、彼女です」
いつもは「祖父」なのに。素が出たのだと思うとおかしくて、胸が温かくなった。
「言っただけだ。願うのは自由だろう」
「四宮紗英です。四宮ホールディングスの系列でも、現場提案シートを導入したくて」
差し出された名刺には、『新規事業担当 四宮紗英』とあった。
「……藤色じゃないんですね」
「令嬢の衣装は、脱いだの。改めてよろしくね、水無瀬さん」
差し出された手を、私は取った。
◇
日曜の夜。会長のお屋敷は、ホテルよりずっと静かだった。
「水無瀬千紗でございます。本日は、お招き頂き──」
「堅いな。京介の教育の賜物か」
畳に手をついた私に、会長は愉快そうに目を細めた。
食後、出された栗菓子に会長が笑う。
「こいつは昔から甘党でな。人には絶対に譲らん」
そう言われた京介さんは、黙って自分の皿を私の前へ差し出した。
「嫌なら、俺が食べる」
そのやり取りを見届けた会長は、湯呑みを置いてぽつりと言った。
「……伊集院千紗、悪くない響きだ」
京介さんが、むせた。
「じいちゃん。決めるのは、彼女です」
いつもは「祖父」なのに。素が出たのだと思うとおかしくて、胸が温かくなった。
「言っただけだ。願うのは自由だろう」