愛想のない教育係が、私にだけ甘い理由
お屋敷の門までは、庭の一本道だった。迷いようがない道なのに、京介さんはわざとらしく歩幅を落とす。
「この庭は、迷わないんですね」
「一本道だ。お前と歩くのに、早く着きすぎる」
何でもない顔で言うから、返事に困った。
「京介さんは、どうして私にだけ甘いんですか?」
彼は足を止めた。灯籠の明かりが、横顔を橙色に染めている。
「他の人には、今でも容赦しない。お前のミスだけ、指摘の前に息を整える羽目になる」
「理由は?」
少し間があって、彼は灯籠に目を向けたまま言った。
「八月の終わり、採用最終候補の書類が、人事から回ってきた。志望動機の欄に一行だけ、几帳面な字があった。『お客様の顔を見て働きたいです。数字ではなく』と」
息が止まった。
前の店を辞めた夜、台所のテーブルで何度も書き直した。最後に残ったのが、その一行だった。まさか、それを彼が覚えていてくれたなんて。
「この庭は、迷わないんですね」
「一本道だ。お前と歩くのに、早く着きすぎる」
何でもない顔で言うから、返事に困った。
「京介さんは、どうして私にだけ甘いんですか?」
彼は足を止めた。灯籠の明かりが、横顔を橙色に染めている。
「他の人には、今でも容赦しない。お前のミスだけ、指摘の前に息を整える羽目になる」
「理由は?」
少し間があって、彼は灯籠に目を向けたまま言った。
「八月の終わり、採用最終候補の書類が、人事から回ってきた。志望動機の欄に一行だけ、几帳面な字があった。『お客様の顔を見て働きたいです。数字ではなく』と」
息が止まった。
前の店を辞めた夜、台所のテーブルで何度も書き直した。最後に残ったのが、その一行だった。まさか、それを彼が覚えていてくれたなんて。