僕に好かれて困った君、愛でたい!
ネイルなんて正直どうでも良かった。
あの日、
「可愛い!」って言う、無邪気なモモちゃんの笑顔が見たかった。

野外ライブに合わせて、黒ベースに星なんて散りばめてみて。
そして、小指に桃を描いてもらった。

完成した爪を見た時は、モモちゃんが喜んでくれればそれでいいと思っていた。

リキは爪を見て、忌々しい気持ちになった。
こんなの早く消そう。

どうせ空き時間は2時間ある。
とりあえず、パッと目についた店に決める。

通りの向こうに、淡いピンクの看板が見えた。爪先を彩った手のイラストが、小さな店名の横に添えられている。

なんとなく足が向いた。

ドアを開けて入ると、可愛らしいベルが鳴った。
こじんまりとした空間に女性が1人。

ちょうど前の客が終わったのだろう。
片付けをしていた。

「こんにちは」

女性はニッコリ微笑むと、リキを2度見して一瞬ハッとした顔になった。

その反応にも、リキはもう慣れていた。

リキはサングラスを外す。
くっきりとした二重。
そして、青みがかった瞳。

「予約してないんだけど……大丈夫?」

ダメならダメで、いつものとこ行けばいい。
そんな感じ。

せっかくできた空き時間だ。
爪さえ綺麗になれば、店なんてどこでもよかった。

リキが小首を傾げると、

「あ、ちょうど空きができたのでどうぞ!」

と、ネイリストは優しい声色で椅子を引いた。

「ありがとう」

ストンと座るリキ。

アイスコーヒーをテーブルの横に置き、
手を台の上に乗せた。

こういうシステムはもう把握してる。

「じゃあまずオフしますね」

ネイリストが、リキの爪をジッと見てから声をかけた。

「あ、これ桃ですか?可愛い」

リキの眉毛がピクリと動いた。

「もういらない!可愛くない」

彼女はぶっきらぼうな言い方に少し驚いて、慌てて手元に視線を戻した。

言ってから、リキも少しだけ気まずくなる。

あ、やべっ。彼女にあたってどうする。

「ごめんごめん。僕kickthroughのリキって言うの。あとでサイン書くから許して」

彼女はまた慌てて、すぐに笑顔で、

「知ってます!わたしファンクラブ入ってます!」

テーブルの下のバッグから、財布を取り出し、
さらに会員証をリキに見せた。

リキは「ほんとだー」と言うと、
そのカードを手にして裏面を見る。

「ダメだよ、ここにちゃんと名前書かないと」

ペンは?と言いながらリキは催促した。

「はい、書いてあげる。What’s your name?」

「あ、え、はい。ナオです」

その名前を聞いた瞬間、リキの手が止まった。

「ナオ?」

「はい」

短いやり取りだった。

それなのに、なぜかその名前だけが、リキの耳に残った。
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