僕に好かれて困った君、愛でたい!
ナオは思わず、絡まったリキの手を離して両手をあげた。
あの王子様スマイルと言われている笑顔で
リキがナオを見ている。
どこか、そんなナオの反応を面白がっているようにも見えた。

それだけでも有り得ないのに……

ーーぼくのかのじょになってーー

“かのじょ”って言いました……?
わたしの推しが、わたしに向かって?
困る困るーーーー!!!

え?え?なに?ドッキリ?テレビ?ええ?
うそうそうそうそー
まだネイルは終わってないし、仕事中に叫ぶ訳にいかない!
落ち着けわたし。
ナオは興奮を、必死に胸の内に押し込めて
できるだけ冷静に、仕事に戻った。

「またここに何かデザインしますか?」
ナオは悪気もなく、小指を軽くつまんだ。

リキの顔を見ると、しかめっ面でナオを睨んでいる。

あぁーしまった!
わたしなにか地雷踏んだ?
だがすぐにリキは、また王子スマイルで微笑み、
「ナオちゃんが好きな物描いてよ~」

「好きな物?」

ナオは一瞬考えて、小さなスペースに、
細かく筆を動かしながらバナナを描いた。

「え?僕の大好物なんだけど!」
「良かったぁ!それに、ベースを濃い青にしたので映えると思います!」

映えると言うか目立つな。
「うんイイね、可愛い」

そう満足気に言われ、ナオの緊張もやっと少しほどけてきた。

最後の仕上げをしながら、リキに話しかけた。
「この前のライブ、すごく良かったです」

「僕がナンバーワンかっこよかったでしょ?」

リキの言い回しに、一瞬ひるむも、
「はい!ギター弾く姿がすごくかっこよくて惹き込まれました」

80点+5点、合格。
僕の好物まで当てたからね。
リキはほくそ笑んだ。


会計をしながら、ナオはふと思った。
あぁ、噂には聞いてたけど
リキってめっちゃチャラくて人懐っこくて、
男女関係なくフレンドリーな子犬系男子って……。

だか今の“彼女”は、リップサービスか。
しまった、真に受けた~。

「ねぇナオちゃん、連絡先交換しよ♪」

「え!」

待って待って……。今なんて?
推しが?リキが?チャラ男くんが?
片付けをする手が止まった。

「僕もう戻らないとだし、ほら早くぅー」

急かされてスマホを取り出すナオ。
(こんなこと、あっていいのー?)
ナオがおろおろしていると、

「ん、これでよし」

ナオのスマホが鳴り、画面には
【リキ】という名と、バナナのスタンプが押されていた。

リキはサングラスをかけると
ヒョイと立ち上がり、それを鼻までずらし、
「あ、そーだ。今後は絶対に敬語禁止ね!
敬語使われると僕、萎えちゃうから」

リキはそう言うと楽しそうに鼻歌を歌いながら、ドアに手をかけた。

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