僕に好かれて困った君、愛でたい!
シオンは、イラつきを抑えつつモモを促して、持ってきたものをテーブルに並べた。

それは数枚の企画書と資料。
キャンピングカーのパンフレット、キャンプ場の写真などもある。

メンバーが顔を寄せて、各々それを手に取る。

紙をめくる音が重なり、テーブルの上に少しだけ緊張した空気が流れた。

シオンとマネージャーは、1度顔を見合わせたあと、シオンが口火を切った。

「今回、キャンピングカーの新商品のCM曲をkickthroughが……」

言い終わる前に、リキの元々大きな目がさらに見開かれ、キラッと光った。

「ほ、ほんと?」

「ああ、マジ」

その瞬間、リキはシオンに飛びついた。

「やったー!僕嬉しー!夢がまた1つ叶ったんだぁ!」

「だろ?」

だから戻ってこいって言っただろ。

シオンも喜びで、リキをしっかり抱きしめた。

ずっと追いかけてきた夢だ。

リキが口にしたあの日から、何年もかけて、少しずつ積み重ねてきた。

「覚えてたんだな」

シオンが小さく呟く。

「忘れるわけないじゃん!」

リキは笑顔のまま答えた。

その笑顔は、いつもの甘えたような笑顔とは少し違っていた。

ーーーーーーーー

まだリキが、kickthroughの新メンバーとして加入して間もない頃ーーーーー

「音楽以外に好きなものなんかあんの?
まだ若いから、女かぁ?ひひひ」

メンバーきっての夜遊び人こと、ヒロがリキに絡んでいた。

容姿端麗のリキに、やっかみも含めたかどうか。

でもリキはシレッと笑顔で、

「そう、僕女の子だぁいすき!
特に、おねーさんに可愛がられて甘えるのが1番幸せ~♡」

と言って、あのヒロを怯ませた。

「……お前、そんな堂々と言う?」

「だって本当だもん♪」

ケロッと答えるリキに、ヒロが一瞬言葉を失う。

そして、すぐに真顔で、

「キャンピングカーのCMに僕らの曲を使ってもらう。絶対に」

と、当時16歳のリキは、
一変して真剣な顔で、力強く言ったのだった。

さっきまでのおちゃらけた雰囲気が、嘘みたいに消えていた。

ヒロも冗談を返そうとしたが、その顔を見て口を閉じる。

リキにとって、それはただの思いつきなんかじゃなかった。

自分の音楽を、もっと遠くへ届けたい。

そしていつか、その曲を聴いた誰かに、自分のことを見つけてもらいたい。

そんな思いが、その小さな身体の奥に確かにあった。

リキはもちろん、その夢を掴むために、
シオンも努力を惜しまなかった。

シオン自ら、kickthrough以外にもプロデュースを手掛け、
繋げられるように、幅広く仕事に取り組み、売り込んできた。

企画や会議にも参加し、常に、より良い方向に進むように動かした。

その原動力の1つには、
リキのあの日の決意と宣言がもちろんあった。

何度話が流れても、何年経っても。

リキが忘れていないのなら、シオンも諦めるつもりはなかった。

そして今、ようやくその夢が目の前にある。

リキはシオンからゆっくり離れると、
企画書に載っていたMV撮影の文字を見つけて、

「僕もMVの構成考えたい」

と言い出した。

「え?」

周りのみんな、全く同じ反応を示した。

さっきまで夢が叶ったと喜んでいたリキが、急に企画書を覗き込んでいる。

シオンは嫌な予感しかしなかった。

「可愛いおねーさん連れてきていい?♡」

「は?」

シオンの手に持っていた企画書がするっと床に落ちた。
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