僕に好かれて困った君、愛でたい!
ナオは朝から落ち着かなかった。
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、床の上に細長く伸びている。
いつもと変わらない朝、いつもと変わらない部屋。
なのに、テーブルの上に置いたスマホだけが、さっきからやたらと気になって仕方ない。
あの!!!
あの、リキから電話がきたのだ。
昨日、連絡先を交換したばかり。
まずはトークからかな?と思っていたのに、
まさかの電話で、ナオは喜びと不安が入り混じったような気持ちでスマホを見つめた。
画面には、見間違えるはずもない【リキ】の文字。
昨日までは画面の向こうにいる人だった。
ライブに行って、雑誌を買って、新曲が出れば何度も聴いて。
ステージの上で、楽しそうにギターを弾く姿を見ているだけで良かった。
それが昨日、突然推しが目の前に現れた。
あんなに遠かった人が、急にこんなに近くに現れるなんて!!
いつも見ていた綺麗な顔も笑顔も、
全部が手を伸ばせば届く距離にあって、自分の名前まで呼ばれた。
挙句の果てには……
ーーねぇ、僕の彼女になって♡ーー
「……ひゃあっ!」
思い出しただけで顔が熱くなり、ナオは両手で頬を押さえた。
あれはきっと、リキのリップサービス。
ファンだと知ったから、喜ばせようとしてくれただけだろうなぁ。
そういうことにしておいた方が、心臓にも精神的にも絶対にいい。
なのに連絡先まで聞かれて、そして今、
その本人から電話までかかってきている。
「……なんなのよぉ」
こんな偶然の出会いってある?
ナオはスマホから視線を外して、ふと窓に目をやった。
雲の少ない青空を、一羽の鳥がゆっくりと横切っていく。
窓を少し開ければ、朝の空気と一緒に遠くを走る車の音や、誰かの話し声が微かに入り込んできた。
今日も店を開けて、予約のお客さんを迎えて、好きなネイルの仕事をする。
小さくても、自分で叶えた大切な店。
家具も、壁に飾った小物も、棚に並べたネイルのサンプルも、一つ一つ自分で選んだ。
少しずつ増えてきた常連のお客さんが、仕上がった爪を嬉しそうに眺めて帰っていく。
その後ろ姿を見送る時間まで、ナオは好きだった。
誰かに与えてもらったものじゃない。
自分で選んで、自分で頑張って、ようやく手に入れた毎日。
だからーーー
わたしはもう欲張らない。
今の幸せでいい。
これ以上の幸せは望まない。
望んだものが全部手に入るわけじゃないことくらい、もう知っている。
それなら、自分の手の中にちゃんと残ったものを、大切にしていけばいい。
そう思っていた。
それでもスマホはまた鳴っている。
ナオはもう一度【リキ】の文字を見つめた。
嬉しい。
嬉しいけどーーー
嬉しすぎて、困る。
このまま切れてしまう方が嫌かもしれない。
ナオは意を決してスマホを手に取ると、一度大きく息を吸って通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、床の上に細長く伸びている。
いつもと変わらない朝、いつもと変わらない部屋。
なのに、テーブルの上に置いたスマホだけが、さっきからやたらと気になって仕方ない。
あの!!!
あの、リキから電話がきたのだ。
昨日、連絡先を交換したばかり。
まずはトークからかな?と思っていたのに、
まさかの電話で、ナオは喜びと不安が入り混じったような気持ちでスマホを見つめた。
画面には、見間違えるはずもない【リキ】の文字。
昨日までは画面の向こうにいる人だった。
ライブに行って、雑誌を買って、新曲が出れば何度も聴いて。
ステージの上で、楽しそうにギターを弾く姿を見ているだけで良かった。
それが昨日、突然推しが目の前に現れた。
あんなに遠かった人が、急にこんなに近くに現れるなんて!!
いつも見ていた綺麗な顔も笑顔も、
全部が手を伸ばせば届く距離にあって、自分の名前まで呼ばれた。
挙句の果てには……
ーーねぇ、僕の彼女になって♡ーー
「……ひゃあっ!」
思い出しただけで顔が熱くなり、ナオは両手で頬を押さえた。
あれはきっと、リキのリップサービス。
ファンだと知ったから、喜ばせようとしてくれただけだろうなぁ。
そういうことにしておいた方が、心臓にも精神的にも絶対にいい。
なのに連絡先まで聞かれて、そして今、
その本人から電話までかかってきている。
「……なんなのよぉ」
こんな偶然の出会いってある?
ナオはスマホから視線を外して、ふと窓に目をやった。
雲の少ない青空を、一羽の鳥がゆっくりと横切っていく。
窓を少し開ければ、朝の空気と一緒に遠くを走る車の音や、誰かの話し声が微かに入り込んできた。
今日も店を開けて、予約のお客さんを迎えて、好きなネイルの仕事をする。
小さくても、自分で叶えた大切な店。
家具も、壁に飾った小物も、棚に並べたネイルのサンプルも、一つ一つ自分で選んだ。
少しずつ増えてきた常連のお客さんが、仕上がった爪を嬉しそうに眺めて帰っていく。
その後ろ姿を見送る時間まで、ナオは好きだった。
誰かに与えてもらったものじゃない。
自分で選んで、自分で頑張って、ようやく手に入れた毎日。
だからーーー
わたしはもう欲張らない。
今の幸せでいい。
これ以上の幸せは望まない。
望んだものが全部手に入るわけじゃないことくらい、もう知っている。
それなら、自分の手の中にちゃんと残ったものを、大切にしていけばいい。
そう思っていた。
それでもスマホはまた鳴っている。
ナオはもう一度【リキ】の文字を見つめた。
嬉しい。
嬉しいけどーーー
嬉しすぎて、困る。
このまま切れてしまう方が嫌かもしれない。
ナオは意を決してスマホを手に取ると、一度大きく息を吸って通話ボタンを押した。
「……もしもし?」