モテ男とデキ女の奥手な恋

「……どうしたの、兄さん」
 ぜーはーと息を荒げながら境内に到着した俺に、隼人は呆れたように言った。
「いや、何でもない」
 言い終わる頃、げほ、と咳をする。
 くっそ。体力が落ちてる。
 思いながら、深呼吸して息を整えた。
「無事に着けましたか?」
 隼人の後ろから、ひょこりと顔を出したのは栄太郎の手を引いた香子ちゃん。俺が頷くと、
「綺麗な方でしたね」
 その含みのある笑顔に、俺は目を背ける。
 数度深呼吸を繰り返すと、ようやく息が整った。
「政人、走り込みが足らへんぞ」
 笑う栄太郎の頭を小突いて、参道を奥へと向かう。
 ほとんどこのあたりに住む人だけが行く、小さな神社だ。
「お前らはもう参拝したんだろ?」
「うん。待ってるよ。行っておいで」
 隼人にひらりと手を振って、参道を奥へと歩いた。
 参拝客は他に2、3組だけだ。御手水をして、賽銭箱の前に立つ。
 財布の中から出した小銭を賽銭箱に放ると、鐘を鳴らし、二礼、二拍手、一礼。
 今年も一年、みんな元気に過ごせますように。
 隼人と香子ちゃんの挙式が、よいものになりますように。
 手を下げかけて、思いつく。
 ーー橘が、いい男に出会えますように。
「ーー政人?」
 目を開け、手を降ろしたとき、女の声に振り返った。驚いたような顔で立つ、子どもの手を引いた女。
 コートからでも分かるほど、腹部が膨らんでいる。
 その顔には、どことなく見覚えがあった。
「……遠藤、佐知?」
 小、中学校の同級生だ。男勝りで活発で、いつも進んで手を挙げるタイプの子だった。
「うっわ、久しぶりー!」
 嬉しそうに笑いながら、バシバシと肩を叩いて来る。
「痛ぇよ」
「その顔、昔と変わんないー!」
 佐知は近くに立つ男を振り返った。
「小学校の同級生。イケメンっしょ」
「そうだね。はじめまして。夫の松江です」
 男は平均的な身長で、俺たちより少しだけ年上のようだった。
 子供の一人を抱きかかえて、会釈する。
「お前の子供?」
「そりゃそうでしょ。4歳、2歳、で、もうすぐ3人目」
 大きいお腹を指し示して佐知は笑う。その顔は幸せそうだった。
「俺たちもそんな歳かぁ」
「そうだよー。政人は……まだみたいだね」
 佐知は俺の左手に目を留めて言った。
「ま、男の人はこれからだよね。政人ならいつでも相手見つかるっしょ」
「……だといいけどね」
 苦笑すると、4歳の子供が佐知の手を引いた。
「おかーさん、ガラガラしたい」
「お父さんと行こう」
 松江さんが子供の手を引いて賽銭箱へ近づく。俺は横に避けて道を譲った。
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