おかえりの温度
「……今日、あれ、使っちゃおうかなぁ」
おいしいご飯に舌鼓を打ちながら呟くと、嘉晴が「どうぞ」と笑った。
私はその顔をちらっと見る。
「何か分かってるの?」
「もちろん。今年はいつ使うのかなーと思ってた」
「だって、なんかもったいなくて」
「去年もそう言って、結局余ってたじゃない」
そうだっけ、と言うと、そうだよ、と返ってくる。
彼はもしかしたら、私よりも私のことに詳しいかもしれない。
「もったいないっていうなら、来年は枚数を増やそうか? 月一で使えるように十二枚とか」
「そ、そういうわけには。……じゃあ、今日使いますっ」
会話を交わしながら食事を終えると、私は手帳から一枚のカードを取り出した。
嘉晴特製、【おねがいごと券】。
毎年、私の誕生日に、五枚くれる。有効期限は次の誕生日まで。子どもみたいだけれど、それも当然だ。だってこれが始まったのは、私たちがまだ幼稚園のころだから。
相手の誕生日にお祝いをしたいと言った私たちに、親が取り決めたのだ。物を買っては相手の家庭も気を遣うからという配慮で、毎年一枚、【おねがいごと券】を互いにプレゼントして、互いになんとなくそれが気に入って、中学になって物を渡すのが解禁になってもオマケのようにつけていた。
おねがいごと、と言ったって、だいたい互いにたいしたことをお願いしたことはない。買い物につきあって、とか、行ってみたい場所に一緒に行こう、とか……恋人になってからは、ぎゅってして、とか、マッサージとか、そんな程度。
「おねがいしますっ」
「うけたまわりました」
ぺこりと頭を下げながらカードを渡すと、嘉晴は微笑みながら受け取った。
「……それで、今日のご要望は?」
「……えっと」
私は気恥ずかしさにうつむきながら、小さな声で答えた。
「甘えん坊モード……でもいいですか」
嘉晴がまばたきして、ふふっと笑う。
帰ってきたとき私が溶けていたクッションの上に膝を立てて座ると、両手を広げた。
「どうぞ」
私はふらふらと彼の側に近づいて、その胸にすっぽり身体をあずける。
嘉晴が私の髪に触れ、結んでいたゴムを解いて、ゆっくりと髪をすいてくれる。
それから、背中をぽんぽんたたいて、頭を撫でた。
とくん、とくん、私の耳には嘉晴の鼓動の音が聞こえる。