おかえりの温度
夏のべたつく空気が一気に乾いて、朝晩は冷え込むようになってきた時期だ。ぬくもりにじんわりと浸る。
「……嘉晴ぅ」
「はぁい」
私が間延びした声で呼ぶと、嘉晴も間延びした声で応じる。
私は笑って、はぁー、と大満足の吐息をついた。
「……だいすき」
「俺も」
互いに笑って、嘉晴の顔が近づいてくる。唇が触れる。かすかに離れる。私に影をつくったその顔が、穏やかに微笑んでいる。もう一度そこに顔を近づけ、ちゅ、と小さな音をたてて離れる。
「んんん」
心がじわじわ満たされていくようだ。嘉晴の首元に額を寄せる。嘉晴が笑いながらそれを受け止めて、ぽん、ぽん、とまた私の背中をたたく。嘉晴のもう一方の手が、そっと私の腿あたりを撫でている。
「……癒されるぅ」
「ふふ。俺も」
私はまばたきして、嘉晴を見上げた。
「……嘉晴も?」
「うん」
「なんで?」
「なんでって」
嘉晴はちょっと困ったように眉尻を下げた。
「泰子が猫になったみたいでかわいいからかな」
「……猫かぁ」
首を傾げて、そのまま嘉晴の肩に頭を預ける。「にゃぁ」と言うと嘉晴が笑った。身体の振動が、触れたところから伝わってくる。
「かわいい」
「えー。あざとくないの?」
「あざとくてもいいよ。泰子だから」
「なにそれ」
嘉晴が私の額にキスをした。目を上げると、目と目が合う。じっと見つめて、じぃぃっ、と、目と目で意思疎通を図っているうちに、額と額が重なって、どちらからともなく笑う。笑って、鼻と鼻を重ねる。また笑って、唇と唇が重なる。
嘉晴の手が、私の脇あたりを意味ありげに撫でる。くすぐりに弱い私の弱点を、彼は知ってる。けれど、その手にはもっと違う意図を感じる。
「……したくなっちゃった?」
「うん……なっちゃった」
スラックスの中の彼自身が、ときどき反応しているのには気づいていた。くすくす笑いながら、嘉晴の頬にキスをする。
「……泰子は? いや?」
「いやじゃない。……私も、したくなっちゃった」
答えると、嘉晴が目を細める。私の髪をまた撫でて、そのまま後頭部に手を添えて、唇を重ねる。ゆっくり舌先を絡めて、ふと気づく。
「……先に歯磨きすればよかった」
「してくる? お風呂も入れるようにしてあるけど」
「んー。どうしよう」
言いながら、互いになんとなく互いの身体をまさぐっている。いろいろ考えるとお風呂に入って歯磨きをしておきたいところなのだけれど、このぬくもりから離れがたい。
「……一緒に入る?」
「そうする?」
私の提案に、嘉晴の柔らかい視線が答える。うなずくと、「オッケー」と私の額にキスが降りてきた。
「泰子丸洗いコースね」
「えぇ。嘉晴が洗ってくれるの?」
「うん。猫みたいに逃げないでね」
「くすぐったら逃げるかも」
くすぐらないよと嘉晴が笑う。二人で押し合うようにお風呂に行って、子どもみたいに笑いながら服を脱がせ合って、洗い合って、二人で湯船に入ったら、お湯がざあざあこぼれた。