放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第8章:嵐を呼ぶ四重奏(カルテット)
「響……! 相変わらず騒々しいね。ここは保健室だよ、静かにしなさい」
千歳くんが困ったように苦笑いしながら、私から少し体を離した。
「静かにしてられるか! 紬ちゃんが旧館に入っていくのを見たから、ボク、急いで音楽室から駆けつけてきたんだよ! それなのに、千歳がベッドで紬ちゃんに怪しいことをしようとしてるなんて!」
響くんはぷんぷんと怒りながら、ベッドのカーテンをがばっと開け放ち、私の手を掴んでベッドから立たせた。
「さあ、紬ちゃん! こんな保健室なんておさらばして、ボクの音楽室に行こう! 今日はキミのために、特別に新しいグランドピアノの旋律を用意したんだ。キミのその綺麗な耳に、ボクの愛の歌を一番に届けてあげる!」
「あ、あの、響くん……っ」
「待て。誰の音楽室に行くって?」
さらにドアのところから、本を片手にした司くんと、腕を組んだ蓮くんが同時に姿を現した。
「司に蓮まで……! なんなんだよ、みんなしてボクの邪魔をしないでよね!」
響くんが悔しそうに足を踏み鳴らす。
「邪魔をしているのはお前の方だ、響。マスターの体調管理を名目に、千歳が診察(アプローチ)している最中だったんだろう。……もっとも、千歳の下心も見え透いているがな」
蓮くんが冷ややかな視線を千歳くんに向ける。
「はは、僕はただ、マスターの疲れを癒してあげようと思っただけだよ? 蓮くんは本当に疑り深いねぇ」
千歳くんは両手をあげておどけてみせるが、その目はまったく笑っていない。
「どちらにせよ、ここは狭すぎる。紬ちゃん、僕の図書室なら、誰にも邪魔されずにゆっくり話ができるよ。新しいお茶のお菓子も用意してあるんだ」
司くんが物静かに、けれど確実に私を自分の部屋へと誘おうとする。
(みんな、どうしてこんなに私を……!?)
四人のイケメンたちに囲まれ、全員から熱い視線を向けられて、私の心臓はもう限界だった。
理科室、音楽室、図書室、保健室。それぞれの精霊たちが、私というたった一人のマスターを巡って、一歩も譲らないアピール合戦を繰り広げている。
その時だった。
旧館の廊下の奥から、地響きのような不気味な音が鳴り響いた。
「――グルルル……」
野生の獣のような低い唸り声。
四人の精霊たちの表情が、一瞬にして戦闘モードへと切り替わった。
「チッ、また来たか……。昨日よりも密度が高いな」
蓮くんがメガネを指で押し上げ、鋭い声を出す。
「ボクたちの放課後のデートを邪魔するなんて、万死に値するよ! 紬ちゃん、ボクの側にいて!」
響くんが私の前に立ち、虚空に向かって手を構えた。
「どうやら、今回の『心の霧』は、ただの生徒の不満だけじゃなさそうだね。……誰かの強い『怨念』が混ざっている」
司くんが持っていた古い本を開くと、その頁がパラパラと高速でめくれ、青白い光を放ち始めた。
「みんな、戦闘の準備だ。紬ちゃん、僕の背中に隠れていてね」
千歳くんが私を自分の後ろに庇い、白衣のポケットから緑色の触媒を取り出した。
保健室の引き戸が、外からの凄まじい圧力でメキメキと音を立てて歪んでいく。昨日を遥かに超える、巨大な「心の霧」が、この旧館全体を飲み込もうと動き出していたのだ。
私のポケットの中で、真鍮の鍵が再び、これまでにないほど激しく熱を持ち始めた。
(みんながついてる……。私、怖がってばかりじゃダメだ!)
「みんな……力を貸して! あの霧を、一緒に止めよう!」
私が鍵を高く掲げると、四人の精霊たちは私を振り返り、最高に不敵で、最高に頼もしい、美しい笑顔を浮かべた。
「了解だ、僕のマスター。最高の化学反応を見せてやる」
「ボクたちの愛の四重奏(カルテット)、特等席で聞いててね!」
「物語の結末は、僕たちが勝利で飾るさ」
「よし、お兄さんたちが、悪い虫を徹底的に消毒してあげるね」
四人の精霊たちと、私――小鳥遊紬の、本当の「放課後の戦い」が、今ここに幕を開けたのだった。
千歳くんが困ったように苦笑いしながら、私から少し体を離した。
「静かにしてられるか! 紬ちゃんが旧館に入っていくのを見たから、ボク、急いで音楽室から駆けつけてきたんだよ! それなのに、千歳がベッドで紬ちゃんに怪しいことをしようとしてるなんて!」
響くんはぷんぷんと怒りながら、ベッドのカーテンをがばっと開け放ち、私の手を掴んでベッドから立たせた。
「さあ、紬ちゃん! こんな保健室なんておさらばして、ボクの音楽室に行こう! 今日はキミのために、特別に新しいグランドピアノの旋律を用意したんだ。キミのその綺麗な耳に、ボクの愛の歌を一番に届けてあげる!」
「あ、あの、響くん……っ」
「待て。誰の音楽室に行くって?」
さらにドアのところから、本を片手にした司くんと、腕を組んだ蓮くんが同時に姿を現した。
「司に蓮まで……! なんなんだよ、みんなしてボクの邪魔をしないでよね!」
響くんが悔しそうに足を踏み鳴らす。
「邪魔をしているのはお前の方だ、響。マスターの体調管理を名目に、千歳が診察(アプローチ)している最中だったんだろう。……もっとも、千歳の下心も見え透いているがな」
蓮くんが冷ややかな視線を千歳くんに向ける。
「はは、僕はただ、マスターの疲れを癒してあげようと思っただけだよ? 蓮くんは本当に疑り深いねぇ」
千歳くんは両手をあげておどけてみせるが、その目はまったく笑っていない。
「どちらにせよ、ここは狭すぎる。紬ちゃん、僕の図書室なら、誰にも邪魔されずにゆっくり話ができるよ。新しいお茶のお菓子も用意してあるんだ」
司くんが物静かに、けれど確実に私を自分の部屋へと誘おうとする。
(みんな、どうしてこんなに私を……!?)
四人のイケメンたちに囲まれ、全員から熱い視線を向けられて、私の心臓はもう限界だった。
理科室、音楽室、図書室、保健室。それぞれの精霊たちが、私というたった一人のマスターを巡って、一歩も譲らないアピール合戦を繰り広げている。
その時だった。
旧館の廊下の奥から、地響きのような不気味な音が鳴り響いた。
「――グルルル……」
野生の獣のような低い唸り声。
四人の精霊たちの表情が、一瞬にして戦闘モードへと切り替わった。
「チッ、また来たか……。昨日よりも密度が高いな」
蓮くんがメガネを指で押し上げ、鋭い声を出す。
「ボクたちの放課後のデートを邪魔するなんて、万死に値するよ! 紬ちゃん、ボクの側にいて!」
響くんが私の前に立ち、虚空に向かって手を構えた。
「どうやら、今回の『心の霧』は、ただの生徒の不満だけじゃなさそうだね。……誰かの強い『怨念』が混ざっている」
司くんが持っていた古い本を開くと、その頁がパラパラと高速でめくれ、青白い光を放ち始めた。
「みんな、戦闘の準備だ。紬ちゃん、僕の背中に隠れていてね」
千歳くんが私を自分の後ろに庇い、白衣のポケットから緑色の触媒を取り出した。
保健室の引き戸が、外からの凄まじい圧力でメキメキと音を立てて歪んでいく。昨日を遥かに超える、巨大な「心の霧」が、この旧館全体を飲み込もうと動き出していたのだ。
私のポケットの中で、真鍮の鍵が再び、これまでにないほど激しく熱を持ち始めた。
(みんながついてる……。私、怖がってばかりじゃダメだ!)
「みんな……力を貸して! あの霧を、一緒に止めよう!」
私が鍵を高く掲げると、四人の精霊たちは私を振り返り、最高に不敵で、最高に頼もしい、美しい笑顔を浮かべた。
「了解だ、僕のマスター。最高の化学反応を見せてやる」
「ボクたちの愛の四重奏(カルテット)、特等席で聞いててね!」
「物語の結末は、僕たちが勝利で飾るさ」
「よし、お兄さんたちが、悪い虫を徹底的に消毒してあげるね」
四人の精霊たちと、私――小鳥遊紬の、本当の「放課後の戦い」が、今ここに幕を開けたのだった。