放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第9章:保健室の防衛戦と、重なる鼓動
バリバリ、と恐ろしい音がして、保健室の頑丈な引き戸が内側にひしゃげた。
隙間から滑り込んできたのは、昨日よりも明らかに濃く、ぎちぎちと不気味な音を立てて蠢く黒い霧の触手だった。それはまるで、飢えた猛獣が獲物を値踏みするかのように、部屋の中をねめまわしている。
「チッ、ドアの分子構造を破壊して強行突破か。野蛮な霧だな」
蓮くんがメガネのブリッジを押し上げ、白衣のポケットから紫色の液体が入ったフラスコを取り出した。
「マスター、そこを動くなよ。僕の計算から一歩でも外れれば、お前の安全は保証しない」
「言われなくても、紬ちゃんはボクが守るよ! さあ、醜い怪物め、ボクの情熱的なカプリチオ(奇想曲)でバラバラにしてあげる!」
響くんが宙に浮く光の鍵盤を叩くと、鋭い高音が衝撃波となって放たれ、迫り来る霧の触手を一撃で破裂させた。
けれど、霧はすぐに再生し、今度は数倍の大きさになって天井から降り注いできた。
(うそ……昨日より全然強い……!)
私は千歳くんの背中にしがみつきながら、必死に鍵を握りしめていた。鍵から流れ込むエネルギーが、私の体を通じて四人に供給されているのが感覚でわかる。
「おやおや、ずいぶんと歓迎されていないみたいだね。でも、僕の患者(マスター)に指一本触れさせないよ」
千歳くんが優しく微笑みながらも、その手から緑色の光の粉を周囲に散布した。霧がその粉に触れた瞬間、まるで神経を麻痺させられたかのように、動きが鈍くなる。
「千歳、ナイスアシスト。――これで、包囲網は完成だ」
司くんが静かに本を掲げると、鈍くなった霧の足元から、光り輝く文字の鎖が何十本と飛び出し、その巨体を床に縫い付けた。
「マスター、今だ! 僕たちの触媒(キー)を同調させろ!」
蓮くんの鋭い声に、私は弾かれたように鍵を前に突き出した。
「みんな……いけっ!」
四人の精霊たちが同時に地を蹴った。
蓮くんの放つ科学の光、響くんの音の奔流、司くんの文字の嵐、そして千歳くんの放つ浄化の霧。四つの異なる輝きが一つに混ざり合い、巨大な光の渦となって黒い猛獣を完全に包み込んだ。
「ギ、エェェェェ……!」
霧の奥から、悲鳴とも呪詛ともつかない声が響き、やがてそれは光の中に掻き消されていった。
静寂が、再び保健室に戻ってくる。
「ふぅ……。なんとか、片付いたかな」
千歳くんが白衣の襟を整えながら、私を振り返って微笑んだ。
「紬ちゃん、怪我はなかった!? ボクの戦いぶり、格好よかったでしょう?」
響くんが真っ先に駆け寄ってきて、私の両手を握りしめる。彼の琥珀色の瞳が、まるで褒め言葉を待つ子犬のようにキラキラと輝いていた。
「あ、はい……すごかったです、響くん。みなさん、本当に強くて……」
「当然だ。僕の精密な計算があれば、あんな有象無象に遅れを取るはずがない」
蓮くんが腕を組んでツンとそっぽを向くが、その視線はしっかりと私に向けられていた。
「それよりマスター。お前、さっきから千歳の背中に引っ付きすぎだ。……離れろ」
「えっ? あ、ごめんなさい!」
言われて初めて、自分がまだ千歳くんの白衣をぎゅっと掴んでいたことに気づき、慌てて手を離した。顔がカッと赤くなる。
「いいのに。僕はいつでも、紬ちゃんに引っ付いてもらって構わないんだよ?」
千歳くんがクスリと悪戯っぽく笑い、私の頭をポンポンと撫でた。その大人の余裕に、他の三人が一斉に鋭い視線を送る。
「千歳、君は少し距離感が近すぎるよ」
司くんがいつの間にか私の隣に音もなく立っており、私の肩をそっと抱き寄せて千歳くんから引き離した。
「紬ちゃん、驚いたよね。僕の図書室なら、もっと静かに心を休められる。一緒に行こうか」
「ちょっと待て、司! ボクの音楽室の方が、ハーブティーもあってリラックスできるに決まってる!」
「いや、バイタルの回復には理科室のブドウ糖(ラムネ)が最適だ」
(みんな、さっきまであんなに格好よく共闘してたのに、終わった瞬間これなんだから……)
四人のイケメンたちに囲まれ、あちこちから腕を引っ張られそうになりながら、私は嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちで胸をいっぱいにしていた。
隙間から滑り込んできたのは、昨日よりも明らかに濃く、ぎちぎちと不気味な音を立てて蠢く黒い霧の触手だった。それはまるで、飢えた猛獣が獲物を値踏みするかのように、部屋の中をねめまわしている。
「チッ、ドアの分子構造を破壊して強行突破か。野蛮な霧だな」
蓮くんがメガネのブリッジを押し上げ、白衣のポケットから紫色の液体が入ったフラスコを取り出した。
「マスター、そこを動くなよ。僕の計算から一歩でも外れれば、お前の安全は保証しない」
「言われなくても、紬ちゃんはボクが守るよ! さあ、醜い怪物め、ボクの情熱的なカプリチオ(奇想曲)でバラバラにしてあげる!」
響くんが宙に浮く光の鍵盤を叩くと、鋭い高音が衝撃波となって放たれ、迫り来る霧の触手を一撃で破裂させた。
けれど、霧はすぐに再生し、今度は数倍の大きさになって天井から降り注いできた。
(うそ……昨日より全然強い……!)
私は千歳くんの背中にしがみつきながら、必死に鍵を握りしめていた。鍵から流れ込むエネルギーが、私の体を通じて四人に供給されているのが感覚でわかる。
「おやおや、ずいぶんと歓迎されていないみたいだね。でも、僕の患者(マスター)に指一本触れさせないよ」
千歳くんが優しく微笑みながらも、その手から緑色の光の粉を周囲に散布した。霧がその粉に触れた瞬間、まるで神経を麻痺させられたかのように、動きが鈍くなる。
「千歳、ナイスアシスト。――これで、包囲網は完成だ」
司くんが静かに本を掲げると、鈍くなった霧の足元から、光り輝く文字の鎖が何十本と飛び出し、その巨体を床に縫い付けた。
「マスター、今だ! 僕たちの触媒(キー)を同調させろ!」
蓮くんの鋭い声に、私は弾かれたように鍵を前に突き出した。
「みんな……いけっ!」
四人の精霊たちが同時に地を蹴った。
蓮くんの放つ科学の光、響くんの音の奔流、司くんの文字の嵐、そして千歳くんの放つ浄化の霧。四つの異なる輝きが一つに混ざり合い、巨大な光の渦となって黒い猛獣を完全に包み込んだ。
「ギ、エェェェェ……!」
霧の奥から、悲鳴とも呪詛ともつかない声が響き、やがてそれは光の中に掻き消されていった。
静寂が、再び保健室に戻ってくる。
「ふぅ……。なんとか、片付いたかな」
千歳くんが白衣の襟を整えながら、私を振り返って微笑んだ。
「紬ちゃん、怪我はなかった!? ボクの戦いぶり、格好よかったでしょう?」
響くんが真っ先に駆け寄ってきて、私の両手を握りしめる。彼の琥珀色の瞳が、まるで褒め言葉を待つ子犬のようにキラキラと輝いていた。
「あ、はい……すごかったです、響くん。みなさん、本当に強くて……」
「当然だ。僕の精密な計算があれば、あんな有象無象に遅れを取るはずがない」
蓮くんが腕を組んでツンとそっぽを向くが、その視線はしっかりと私に向けられていた。
「それよりマスター。お前、さっきから千歳の背中に引っ付きすぎだ。……離れろ」
「えっ? あ、ごめんなさい!」
言われて初めて、自分がまだ千歳くんの白衣をぎゅっと掴んでいたことに気づき、慌てて手を離した。顔がカッと赤くなる。
「いいのに。僕はいつでも、紬ちゃんに引っ付いてもらって構わないんだよ?」
千歳くんがクスリと悪戯っぽく笑い、私の頭をポンポンと撫でた。その大人の余裕に、他の三人が一斉に鋭い視線を送る。
「千歳、君は少し距離感が近すぎるよ」
司くんがいつの間にか私の隣に音もなく立っており、私の肩をそっと抱き寄せて千歳くんから引き離した。
「紬ちゃん、驚いたよね。僕の図書室なら、もっと静かに心を休められる。一緒に行こうか」
「ちょっと待て、司! ボクの音楽室の方が、ハーブティーもあってリラックスできるに決まってる!」
「いや、バイタルの回復には理科室のブドウ糖(ラムネ)が最適だ」
(みんな、さっきまであんなに格好よく共闘してたのに、終わった瞬間これなんだから……)
四人のイケメンたちに囲まれ、あちこちから腕を引っ張られそうになりながら、私は嬉しいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちで胸をいっぱいにしていた。