放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第11章:迷宮の図書室と、大人な保健室の罠
響くんの音楽室を出た後、私は学級文庫の返却のために、一階の図書室へと向かった。
夕方の図書室は、本棚の影が長く伸びていて、まるで本で作られた巨大な迷宮のようだ。
「司くん、いる……?」
「ここだよ、紬ちゃん」
本棚の奥から、司くんが静かに姿を現した。彼の手には、美しい細工が施されたティーカップが二つ載ったトレイが握られていた。
「ちょうど君が来ると思って、お茶を淹れていたんだ。ローズマリーの紅茶だよ。記憶力と、心の落ち着きを促す効果があるんだ」
司くんは、本棚に囲まれた秘密の読書スペースの小さな机にトレイを置いた。そこには、ふかふかのソファが二つ並んでいる。
「座って。君のクラスの学級委員長さんのこと、僕の耳にも入っているよ」
司くんは温かい紅茶を私に手渡しながら、自分も隣のソファに腰掛けた。
「司くんも、知ってたの?」
「うん。この旧館には、学校中の『声』が集まってくるからね。彼女の心の叫びは、今、かなり危険な領域に達している。でも……」
司くんは紅茶のカップを置くと、すっと私のソファの方へと移動してきた。驚くほど自然な動きで、気づけば私のすぐ隣に彼が座っている。
「君がそんな風に、誰かのために傷ついているのを見るのは、僕の物語(本)にはない展開だな」
司くんは私の手からそっとカップを取り上げると、私の両手を自分の大きな手で包み込んだ。
「君の優しい心は、とても貴重で、美しい。だからこそ……僕だけのものにして、この図書室の奥に隠してしまいたくなるんだ」
「司くん……?」
「冗談だよ」
司くんはフッと儚げに微笑んだが、その瞳の奥にある独占欲の光は、ちっとも冗談には見えなかった。彼は私の額に、そっと自分の額を合わせた。至近距離で、彼の綺麗なタレ目が私を見つめている。
「でも、君がその子のために戦うと言うなら、僕は君の『言葉』になって、どんな嘘も真実に変えてあげる。だから、僕を一番に頼ってね?」
(つ、司くんは、いつも物静かなのに、たまにすごく強引で……心臓が持たないよ……っ)
図書室を出て、最後に私は保健室の扉を叩いた。
松下さんの体調のことも、千歳くんなら何か知っているかもしれないと思ったからだ。
「はーい、おいで、紬ちゃん」
中に入ると、千歳くんはデスクで何か書類を読んでいたが、私を見るなり、すぐに眼鏡を外して優しい笑みを浮かべた。
「どうしたの? そんなに思い詰めた顔をして」
「千歳くん……。あの、クラスの松下さんのことなんだけど……」
私が事情を説明すると、千歳くんはふむ、と顎に手を当てた。
「なるほどね。彼女、先週保健室に来たよ。極度のストレスと睡眠不足。おまけに、周囲からの期待に押し潰されそうになっていた。あの子の『心の霧』が、旧館の怪異を呼び寄せた主因で間違いないね」
「やっぱり……! じゃあ、どうすれば松下さんを助けられるの?」
千歳くんは立ち上がると、私の目の前まで歩いてきて、私の肩を優しく抱きしめた。
大きな体につつまれて、ラベンダーの香りが私を包み込む。
「君は本当に良い子だね、紬ちゃん。でも、無理はしちゃダメだよ? あの子を助けるには、彼女の心の核にある『トラウマ』を、直接浄化するしかない。それは、昨日よりもずっと危険な戦いになる」
「それでも、私、行きたい! みんなを助けたい!」
私の強い眼差しを見て、千歳くんは観念したように、くすっと微笑んだ。
「分かったよ。そこまで言うなら、僕も全力で君をサポートする。……その代わり」
千歳くんは私の耳元に顔を寄せ、吐息が触れるほどの距離で囁いた。
「この事件が終わったら、僕のお願い、一つだけ聞いてくれる? ……僕だけの、特別なお姫様になってほしいんだ」
(千歳くん……っ。そんなの、反則だよ……!)
顔が真っ赤になり、心臓が爆発しそうなほど高鳴る。
四人の特別な男の子たちから、それぞれ異なる方法で、けれど確実に向けられる熱い想い。私は彼らの愛と期待を背負いながら、クラスメイトを救うための、さらなる大きな戦いへと足を踏み出そうとしていた。
(みんなの想いに、応えられるように……私、頑張るからね!)
ポケットの中の鍵が、まるで私の決意を祝福するように、あたたかく、そして力強く輝き始めた。
夕方の図書室は、本棚の影が長く伸びていて、まるで本で作られた巨大な迷宮のようだ。
「司くん、いる……?」
「ここだよ、紬ちゃん」
本棚の奥から、司くんが静かに姿を現した。彼の手には、美しい細工が施されたティーカップが二つ載ったトレイが握られていた。
「ちょうど君が来ると思って、お茶を淹れていたんだ。ローズマリーの紅茶だよ。記憶力と、心の落ち着きを促す効果があるんだ」
司くんは、本棚に囲まれた秘密の読書スペースの小さな机にトレイを置いた。そこには、ふかふかのソファが二つ並んでいる。
「座って。君のクラスの学級委員長さんのこと、僕の耳にも入っているよ」
司くんは温かい紅茶を私に手渡しながら、自分も隣のソファに腰掛けた。
「司くんも、知ってたの?」
「うん。この旧館には、学校中の『声』が集まってくるからね。彼女の心の叫びは、今、かなり危険な領域に達している。でも……」
司くんは紅茶のカップを置くと、すっと私のソファの方へと移動してきた。驚くほど自然な動きで、気づけば私のすぐ隣に彼が座っている。
「君がそんな風に、誰かのために傷ついているのを見るのは、僕の物語(本)にはない展開だな」
司くんは私の手からそっとカップを取り上げると、私の両手を自分の大きな手で包み込んだ。
「君の優しい心は、とても貴重で、美しい。だからこそ……僕だけのものにして、この図書室の奥に隠してしまいたくなるんだ」
「司くん……?」
「冗談だよ」
司くんはフッと儚げに微笑んだが、その瞳の奥にある独占欲の光は、ちっとも冗談には見えなかった。彼は私の額に、そっと自分の額を合わせた。至近距離で、彼の綺麗なタレ目が私を見つめている。
「でも、君がその子のために戦うと言うなら、僕は君の『言葉』になって、どんな嘘も真実に変えてあげる。だから、僕を一番に頼ってね?」
(つ、司くんは、いつも物静かなのに、たまにすごく強引で……心臓が持たないよ……っ)
図書室を出て、最後に私は保健室の扉を叩いた。
松下さんの体調のことも、千歳くんなら何か知っているかもしれないと思ったからだ。
「はーい、おいで、紬ちゃん」
中に入ると、千歳くんはデスクで何か書類を読んでいたが、私を見るなり、すぐに眼鏡を外して優しい笑みを浮かべた。
「どうしたの? そんなに思い詰めた顔をして」
「千歳くん……。あの、クラスの松下さんのことなんだけど……」
私が事情を説明すると、千歳くんはふむ、と顎に手を当てた。
「なるほどね。彼女、先週保健室に来たよ。極度のストレスと睡眠不足。おまけに、周囲からの期待に押し潰されそうになっていた。あの子の『心の霧』が、旧館の怪異を呼び寄せた主因で間違いないね」
「やっぱり……! じゃあ、どうすれば松下さんを助けられるの?」
千歳くんは立ち上がると、私の目の前まで歩いてきて、私の肩を優しく抱きしめた。
大きな体につつまれて、ラベンダーの香りが私を包み込む。
「君は本当に良い子だね、紬ちゃん。でも、無理はしちゃダメだよ? あの子を助けるには、彼女の心の核にある『トラウマ』を、直接浄化するしかない。それは、昨日よりもずっと危険な戦いになる」
「それでも、私、行きたい! みんなを助けたい!」
私の強い眼差しを見て、千歳くんは観念したように、くすっと微笑んだ。
「分かったよ。そこまで言うなら、僕も全力で君をサポートする。……その代わり」
千歳くんは私の耳元に顔を寄せ、吐息が触れるほどの距離で囁いた。
「この事件が終わったら、僕のお願い、一つだけ聞いてくれる? ……僕だけの、特別なお姫様になってほしいんだ」
(千歳くん……っ。そんなの、反則だよ……!)
顔が真っ赤になり、心臓が爆発しそうなほど高鳴る。
四人の特別な男の子たちから、それぞれ異なる方法で、けれど確実に向けられる熱い想い。私は彼らの愛と期待を背負いながら、クラスメイトを救うための、さらなる大きな戦いへと足を踏み出そうとしていた。
(みんなの想いに、応えられるように……私、頑張るからね!)
ポケットの中の鍵が、まるで私の決意を祝福するように、あたたかく、そして力強く輝き始めた。