放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第17章:新たな精霊、生徒会室の絶対君主
翌日の昼休み。
恐れていた「嵐」は、思いもよらない方向から、最悪の形で私の元へとやってきた。

四人の精霊たちからの朝の猛攻をなんとか潜り抜け、教室でようやくお弁当を食べ終えてホッとしていた、その時だった。
教室の引き戸がガラガラと音を立てて開き、腕に「生徒会執行部」と書かれた厳格な腕章を巻いた、生真面目な顔つきの先輩がズカズカと入ってきた。先輩は教壇の前に立つと、鋭い声で私の名前を呼んだ。

「一年二組、小鳥遊紬さん。生徒会長が、至急『生徒会室』へ来るようにとのことです。ただちに同行してください」

その瞬間、ざわついていた教室が一瞬にして静まり返り、クラスメイトたちの好奇と哀れみに満ちた視線が一斉に私に突き刺さった。あの模範的な生徒会が、クラスの「空気」である私を名指しで呼び出すなんて、普通ではあり得ないことだからだ。

「は、はい……っ」

私は縮こまりながら、消え入りそうな声で小さく返事をした。心臓がバクバクと嫌な音を立てて脈打ち始める。

(生徒会室なんて、新館の最上階にある、選ばれた人しか入れない場所なのに……。今まで一度も行ったことがない。まさか、旧館での精霊たちとの大騒ぎや、あの怪異との戦いが全部バレて、退学させられたりするのかな……?)

お腹の底がキリキリと痛むのを感じながら、先輩の後ろを歩いて新館の最上階へと向かった。
たどり着いた生徒会室の入り口には、重厚なオーク材で作られた、見る者を圧倒するような立派なドアが佇んでいた。緊張で指先が氷のように冷たくなっていくのを感じながら、私は震える手で小さくノックをした。

コンコン、と静かな廊下に音が響く。

「失礼します……。一年二組の、小鳥遊です……」

「入れ」

中から聞こえてきたのは、冷たく、低く、一切の無駄な感情を削ぎ落としたような、威厳に満ちた声だった。その声の圧力だけで、思わず回れ右をして逃げ出したくなるほどだった。

意を決してドアを押し開けると、そこは学校の中とは思えないほど、洗練されたクラシカルで高級感の漂うオフィスのような空間だった。磨き抜かれたフローリングに、壁一面に並ぶ難しい書類が詰まった本棚。
そして、部屋の最奥にある大きなデスクの向こう、背もたれの高い黒い革張りの椅子に座っていたのは、一人の男の子だった。

漆黒の髪を完璧に整え、非の打ち所がないほど端正な顔立ち。けれど、その切れ味の鋭い切れ長の瞳は、まるですべてを見透かす暗黒の水晶のようだった。制服の着こなしも完璧で、その胸元には、生徒会長の証である特別な金色のバッジが夕日を浴びてギラリと光っている。

「君が、小鳥遊紬か」

彼は静かに立ち上がると、長い足を響かせながら、ゆっくりと私の方へ歩み寄ってきた。彼が一歩近づくたびに、部屋の中の空気が重くなっていくような、圧倒的な王者のオーラを感じる。私は本能的な恐怖から、思わず一歩後ろに下がってしまった。

「僕は『律(りつ)』。この学校の生徒会長であり――そして、この『生徒会室』を統べる精霊だ」

「え……っ!? 律くんも……精霊なんですか!?」

あまりの衝撃に、私は思わず大きな声を上げてしまった。生徒会長という、人間の権力のトップにいる人が、まさか精霊だったなんて。
驚愕して目を丸くする私を見て、律くんは不機嫌そうに美しい眉根を寄せた。

「あいつらと同類にされるのは心外だな。蓮や響、司に千歳……。あいつらは旧館という過去の遺物に閉じこもって、己の欲望のままに動く不確定要素に過ぎない。だが、僕は違う。僕は、この学校の『規律』と『秩序』そのものだ」

律くんは私の目の前でピタリと立ち止まると、冷徹な視線で私を上から下まで値踏みするように、じっと見つめてきた。その視線があまりにも鋭くて、私は身動きができなくなる。

「君が、あの古びた鍵に選ばれたマスターだというから、どんな傑物かと思えば……。ただの、どこにでもいる地味で、警戒心の薄い女子生徒じゃないか。なぜ鍵が君のような者を求めたのか、僕の管理する完璧なデータベースでは全く説明がつかないな」

「う、うう……。すみません、私みたいなのがマスターになっちゃって……」

あまりにもストレートに地味だと言われ、さらに律くんの圧倒的な正論の前に、私は本当に申し訳なくなって俯いてしまった。
すると、律くんはフッと冷たい鼻笑いを漏らした。
しかし次の瞬間――私の視界が急に反転した。

「あ……」

顎に、ひんやりとした、けれど確かな感触。律くんの白い手袋で覆われた指先が、私の顎をきゅっと掴み、強引に上を向かせたのだ。
いわゆる「顎クイ」の体勢のまま、彼の顔が至近距離まで近づいてくる。彼の完璧な形の唇から、冷たい吐息が私の頬にかかる。彼の瞳は、冷徹な氷のようでありながら、その奥に抗いがたい強烈な支配の炎を宿していた。

「謝る必要はない。これは客観的な事実だ。だが……君がこの学校の秩序を乱す存在になるというのなら、僕は容赦なく君を僕の支配下に置く」

「ひゃい……っ」

「いいか、小鳥遊。今日から君の行動は、すべて僕が監視する。放課後、旧館の奴らのところへ行くことも原則禁止だ。君は、僕の目の届くこの生徒会室で、僕の書記として、僕のためだけに働くんだ。……異論は認めない」

(な、なんなのこの人……! 今までの四人よりも、ずっと強引で、上から目線で……まるでお殿様、ううん、絶対君主みたい……っ!)

心臓が恐怖と、それから別のドクドクとした高鳴りで破裂しそうになった、その時だった。

ドォーーーーン!!!

生徒会室の頑丈なドアが、これまでにない凄まじい衝撃音とともに内側へと吹き飛んだ。

「――おい、律! 僕のマスターに、その汚い手で気安く触るなと言ったはずだ!!」

土煙の中から現れたのは、いつも冷静なはずのメガネの奥の目を、完全に据わらせて怒り狂っている理科室の蓮くんだった。
彼の後ろからは、同じように険しい表情をした響くん、司くん、千歳くんが、それぞれの魔力を全身から立ち昇らせながら控えている。

四人の精霊たちが、新キャラクターである生徒会長の律くんに向けて、一斉に凄まじい敵意と殺気を放ち始めたのだった。
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