放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第18章:美術室の幻影と、引き裂かれる絆
「蓮、響、司、千歳……。許可なく生徒会室の扉を破壊して立ち入るとは、相変わらず規律の欠片もない野蛮な連中だ」

律くんは私の顎からゆっくりと手を離すと、白い手袋をパシッと小気味よい音を立てて叩き、現れた四人を冷ややかに見据えた。その態度には、四人の魔力に圧される様子など微塵もない。

「規律なんて知るか! 紬ちゃんをそんな風に命令で縛り付けるなんて、ボクが絶対に許さないんだから! 彼女はボクのミューズなんだ!」

響くんが猛烈な勢いで私の前に割って入り、律くんを細い指で指差して怒鳴る。彼の周りでは、怒りの感情に呼応して目に見えない音波が空気をごうごうと震わせている。

「律、君の傲慢な支配欲には恐れ入るよ。でも、彼女は僕たちのマスターだ。君個人の所有物のように扱うのは間違っている」

司くんがいつも持ち歩いている古びた本を胸元に構え、いつでもそのページから魔力を解放できる戦術姿勢を取った。彼の物静かな瞳の奥に、確かな怒りの炎が見える。

「はは、律くんも相変わらず手厳しいねぇ。でも、そんな風に可愛い女の子を怖がらせちゃ、生徒会長としても男としても失格だよ?」

千歳くんがいつの間にか私の背後に回り込み、私の肩にそっと大きな手を置いて、安心させるように優しく微笑みかけてくれた。けれど、律くんに向けられたその視線は、いつもの穏やかさとは程遠い、鋭い冷徹さを秘めている。

生徒会室の中は、五人の美少年たちの凄まじい魔力が真っ向から衝突し、空気がバチバチと静電気を帯びてパチパチと音を立てるほどの、息詰まる緊迫感に包まれていた。私一人、その中央で完全に固まってしまう。

しかし、その一触即発の、今にも全面戦争が始まりそうな空気を切り裂いたのは、学校中に響き渡る非常ベルのけたたましい音だった。

ジリリリリリリリリ――ッ!!!
ジリリリリリリリリ――ッ!!!

廊下や天井から鳴り響く大音量のベルの音に、全員の動きがピタリと止まる。

「何事だ!?」

律くんが素早くデスクに引き返し、生徒会特有の高度な防犯モニターを確認する。キーボードを叩く彼の指先は一瞬の無駄もない。
画面が切り替わると、そこには新館の二階にある『美術室』の映像が映し出された。

「これは……何だ……!?」

モニターを覗き込んだ私の口から、恐怖のあまり悲鳴のような声が漏れた。
画面の中の美術室からは、これまでに見たこともないほど濃密で禍々しい、不気味なピンク色と黒が混ざり合ったモヤモヤとした霧が、滝のように噴き出していたのだ。

「間違いない……『心の霧』だ。だが、このエネルギーの色の波形は、今までの旧館で戦ってきたものとは明らかに違う……! 人間のドロドロとした精神汚染の数値が異常に高い!」

蓮くんがモニターの数値を素早く解析し、メガネの奥の目を鋭く光らせて分析する。

「ウフフ……、アハハハハ!」

その時、モニターのスピーカーから、不気味な、けれどどこか聞き覚えのある少女の笑い声が聞こえてきた。画面の霧の奥、イーゼルの前に立っていたのは、最近私のクラスに転校してきたばかりの、容姿端麗で、勉強もできて、誰にでも優しいクラスの人気者の女の子――美咲(みさき)さんだった。

「みんな、本当の自分を隠して、偽りの仮面を被って生きてるのよ……。いい子ちゃんのフリをするなんて、そんなの、全部壊しちゃえばいいの。この美術室のキャンバスに、みんなのドロドロの本音をぶちまけてあげる!」

美咲さんの狂気に満ちた叫びとともに、美術室から溢れ出た霧の波が、廊下を歩いていた一般の生徒たちを次々と飲み込んでいくのが見えた。
霧に触れた生徒たちは、一瞬にして目の光を失って虚ろな表情になり、頭を抱えて叫び始めた。

「あいつ、いつも私の悪口言ってるの知ってるんだから! 本当にムカつく!」
「先生なんて大嫌いだ! 点数だけで俺たちを判断しやがって!」

生徒たちが普段は絶対に口にしない、心の奥底に隠しているドロドロとした嫉妬や悪意を、狂ったように大声で叫び始め、廊下は一瞬にして地獄絵図のようなパニックに陥っていく。

「まずいね。今回の霧は、人間の精神に直接作用し、社会的な『偽りの仮面(ペルソナ)』を強制的に剥ぎ取る力を持っているようだ。このまま霧が学校全体に広がれば、すべての人間関係が完全に崩壊するよ」

千歳くんがいつになく真剣な、余裕のない表情で言った。

「行くぞ、小鳥遊。生徒会長として、この学校の秩序と規律の崩壊を、目の前で見過ごすわけにはいかない」

律くんが乱れた衣服を完璧に整え、白手袋をはめ直すと、真っ先に生徒会室を飛び出した。

「待て、律! 勝手に一人で行くな! マスター、僕の側を絶対に離れるな!」

蓮くんが私の手首を強く掴み、引っ張るようにして走り出す。響くん、司くん、千歳くんもその後に続き、私たちは不気味な悲鳴と悪意の声が響き渡る新館の階段を駆け下り、美術室へと急行した。
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