放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第22章:試練の迷宮、引き裂かれる絆
翌朝、世界から私以外のすべての「人間」の時間が奪われ、校舎は静まり返っていた。
私は一人、旧館の最奥にある『開かずの時計塔』の錆びついた鉄の扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。

内部は巨大な工場のようになっており、無数の歯車がガチガチと逆回転している。そして、上へと続く螺旋階段は、足元が見えなくなるほどの濃密な、ピンク色と黒の『忘却の霧』で満たされていた。

「待て。これ以上の立ち入りは制限されている。……ただちにその鍵を引き渡し、退去しろ。さもなければ、排除する」

階段の登り口で、漆黒の光のブレードを構えて立ちはだかったのは――生徒会長の律くんだった。その瞳にはハイライトが一切なく、時計塔のシステムに完全に支配されている。

「律くん! 私は不審者じゃないよ! 私は小鳥遊紬、あなたのマスターだよ! 思い出して!」

「黙れ……!」

律くんが容赦なくブレードを振り上げて私に向かって突撃してきた。死を覚悟して目を瞑った、その瞬間。

ピタリ、と律くんの動きが、私の目の前わずか数センチのところで完全に停止した。

「が、あ……っ!? なぜだ……! なぜ、僕の身体が、この女を斬ることを拒絶する……!?」

律くんは、ブレードを握った右腕を左手で必死に抑え込みながら、苦しそうに激しく喘ぎ始めた。彼の魂が、本能が、私を守れと必死に叫んでいるのだ。

「……小鳥遊……か。……フン、本当に、君は……僕の規律を狂わせる……」

一瞬だけいつもの瞳を取り戻した律くんは、優しく微笑むと、残されたすべての魔力をバッジへと注ぎ込んだ。

「いけ、小鳥遊……! 僕の最後の業務命令だ……! 上へ、行けぇーーーーーッ!!」

純白の光が爆発的に放たれ、階段を塞いでいた霧を一瞬にして消し飛ばした。それと引き換えに、律くんの身体は光の粒子となって消滅し、床には彼の白手袋だけが静かに落ちた。

「律くん……!」

私はその手袋を拾い上げ、胸に抱きしめて階段を駆け上がった。

しかし、中層階の音楽の空間では、今度は響くんが漆黒に染まった瞳で狂ったように不協和音を掻き鳴らしていた。

「アハハハハ! 壊れちゃえ! ボクの歌なんて、どうせ誰の耳にも届かないんだ!」
「響くん! やめて! 私だよ! 紬だよ!!」

私は迫り来る音符の弾丸を受け止めながら、響くんの透けかかった身体を後ろから強く抱きしめた。
その温もりに、響くんの瞳からポロポロと綺麗な涙が溢れ出た。

「……紬……ちゃん……。ああ、やっぱり、紬ちゃんだ……! ボク、大好きな君を傷つけちゃうところだった……っ!」

響くんは泣きじゃくりながら、最後の力を振り絞って虚空の鍵盤を優しく一叩きした。
時計塔の中に、世界で一番優しくて温かい、あの思い出のメロディが響き渡り、周囲の霧を完全に浄化していく。そして、響くんもまた、最高の音色とともに光のチリとなって消え去り、小さな音符のヘアピンだけが残された。

「響くん、ありがとう……っ!」

律くんの白手袋と、響くんのヘアピンを握りしめ、私はさらに上へと走り続けた。
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