放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
第2章:華やかなソナタと、音楽室の誘惑
「えっ……!? 壁から人が……っ!?」
理科室の頑丈なコンクリートの壁を、まるで水面をくぐるようにして滑らかに通り抜けてきたその人影に、私は声が裏返るほどの悲鳴をあげた。あまりの恐怖と混乱に、自分の頭が完全におかしくなってしまったのではないかと、本気で自分のこめかみを殴りたくなったほどだ。
しかし、私の大混乱の悲鳴を置き去りにして、新しく現れたその男の子は、まるでスポットライトを浴びた舞台の上の主役のように、計算し尽くされた華麗な動作で前髪を優しくかき上げた。
夕日の残光を浴びてきらきらと輝く、ウェーブがかった明るいブロンドの髪。その隙間から覗くのは、まるで極上の宝石を嵌め込んだかのような、気品に満ちた琥珀色の瞳だった。学校の制服の上から、仕立てのいい高級なベストを完璧に着こなした彼の姿は、まるでヨーロッパの王子様がそのまま絵本や映画の世界から飛び出してきたかのような、圧倒的な美貌とオーラを全身から放っていた。彼が歩くたびに、理科室の埃っぽい空気が、まるで華やかな劇場のような甘い香りに塗り替えられていく。
「初めまして、僕の可愛い子猫ちゃん(ミューズ)。僕は『響(ひびき)』。あそこの音楽室で、キミが僕を奏でてくれるのを、ずっとずっと待っていたんだよ」
響くんは、まるで古いダンスのステップを踏むように流れるような動きで私との距離を詰めると、怯える私の右手をそっと両手で包み込んだ。彼の指先は驚くほど滑らかで、そのまま私の手の甲にそっと熱い唇を寄せようと、顔を近づけてくる。
「な、何するんですか……っ!?」
耳まで一瞬で真っ赤になった私は、弾かれたように叫びながら、全力で自分の手を後ろへと引っ込めた。
すると響くんは、大袈裟に目を見開いてショックを受けたように自分の胸を手で押さえ、ドラマの悲劇の主人公のような仕草をしてみせた。
「おやおや、恥ずかしがり屋の照れ屋さんなんだね? でもね、そういうピュアで初々しい反応も、僕の芸術的インスピレーションを激しく刺激するよ。いいかい? あんな陰気で薬品臭いメガネ男のところにいても、キミの美しい人生はちっとも輝かない。僕のピアノの腕前は世界一だけど、キミの生涯の特等席は、僕の隣(ピアノの椅子)だけさ。ほら、他のやつらの雑音なんて忘れて、僕の奏でる演奏だけを聴いて?」
響くんはウインクをしながら、甘くとろけるような笑顔を私に投げかけてくる。そのあまりの破壊力に、私の心臓は別の意味で破裂しそうになっていた。
「チッ……相変わらず耳障りで不快な男だな、音楽室のナルシストが。僕の貴重な研究対象に、その汚い手で勝手に触れるなと言ったはずだ」
背後にいた蓮くんが、氷のように冷たい声で激しく舌打ちをした。彼は不機嫌そうに端正な眉をひそめると、白衣のポケットから、何やら怪しげな青い液体が並々と注がれた一本の試験管を取り出した。メガネの奥にある彼の瞳が、実験動物を冷酷に処分するかのような、冷たい光を帯びて響くんを睨みつける。
「おや、科学の非力な力で、僕の高尚な芸術を邪魔する気かい? いいよ、受けて立つよ、蓮」
響くんもその挑発を正面から受け止め、不敵な笑みを崩さないまま、右手の指をパチンと鋭く鳴らした。
その瞬間だった。どこにスピーカーがあるわけでもないのに、まるで頭の中に直接流れ込んでくるかのような、激しくも美しいピアノの重厚な旋律が、静かな理科室の中に鳴り響いた。その音楽の波動のせいか、室内の空気がビリビリと肌を刺すように震え始める。
(な、なんなのこの人たち……!? 精霊って……私、これからどうなっちゃうの!?)
息をのむほど整った二人の美少年に挟まれ、空間の真ん中で凄まじい視線の火花がバチバチと散る中で、私は完全に置いてけぼりになっていた。恐怖と困惑で涙目になりながらも、二人が睨み合い、その魔力を高め合うたびに、私の制服のポケットの中にある『真鍮の鍵』が、まるで警告を発するようにどんどん熱くなり、ドクドクと激しい脈動を強めていくのが分かった。
「あの……二人とも、ケンカはやめてください……っ!」
このままでは理科室が壊れてしまうかもしれない。そう思った私は、恐怖を押し殺して、勇気を振り絞って二人の間に割って入るように声をあげた。
――その、まさに刹那だった。
夕日の影が落ちる理科室の床の隙間から、どろりとした、タールのような不気味な黒い霧が、意思を持っているかのようにウネウネと湧き出し始めたのだ。
「――え?」
床を這うその黒いモヤは、明らかに普通の煙ではない。冷酷な悪意を放ちながら、まっすぐに私の方へと触手を伸ばすようにして急速に迫ってくる。それに伴い、理科室の温度が急激に下がり、吐く息が白くなるほどの極寒が部屋を支配した。
「紬、危ない!」
「下がって、子猫ちゃん!」
それまでいがみ合っていた蓮くんと響くんの顔つきが、一瞬でプロの戦士のような真剣なものへと変わった。
蓮くんが電光石火の速さで私の前に立ち塞がり、手にした試験管の青い液体を、床を這う黒い霧に向けて容赦なく投げつけた。パァンと激しい破裂音がして、実験台の上に白い化学反応の煙が立ち込め、一時は霧の侵入を拒んだかのように見えた。
しかし、その不気味な黒い霧は、彼らの防衛を嘲笑うかのようにさらに勢いを増し、質量を持った闇となって、私を完全に包み込もうと取り囲んでいく。
(うそ……足がすくんで、動かない……!)
見たこともない怪異への圧倒的な恐怖で、私の身体はまるで金縛りにあったかのように硬直してしまった。一歩後ろに下がりたいのに、床に足が張り付いたようにびくともしない。
冷たい絶望の霧が、私の爪先から冷酷に捕らえようと這い上がってきた、まさにその瞬間――。
理科室の頑丈なコンクリートの壁を、まるで水面をくぐるようにして滑らかに通り抜けてきたその人影に、私は声が裏返るほどの悲鳴をあげた。あまりの恐怖と混乱に、自分の頭が完全におかしくなってしまったのではないかと、本気で自分のこめかみを殴りたくなったほどだ。
しかし、私の大混乱の悲鳴を置き去りにして、新しく現れたその男の子は、まるでスポットライトを浴びた舞台の上の主役のように、計算し尽くされた華麗な動作で前髪を優しくかき上げた。
夕日の残光を浴びてきらきらと輝く、ウェーブがかった明るいブロンドの髪。その隙間から覗くのは、まるで極上の宝石を嵌め込んだかのような、気品に満ちた琥珀色の瞳だった。学校の制服の上から、仕立てのいい高級なベストを完璧に着こなした彼の姿は、まるでヨーロッパの王子様がそのまま絵本や映画の世界から飛び出してきたかのような、圧倒的な美貌とオーラを全身から放っていた。彼が歩くたびに、理科室の埃っぽい空気が、まるで華やかな劇場のような甘い香りに塗り替えられていく。
「初めまして、僕の可愛い子猫ちゃん(ミューズ)。僕は『響(ひびき)』。あそこの音楽室で、キミが僕を奏でてくれるのを、ずっとずっと待っていたんだよ」
響くんは、まるで古いダンスのステップを踏むように流れるような動きで私との距離を詰めると、怯える私の右手をそっと両手で包み込んだ。彼の指先は驚くほど滑らかで、そのまま私の手の甲にそっと熱い唇を寄せようと、顔を近づけてくる。
「な、何するんですか……っ!?」
耳まで一瞬で真っ赤になった私は、弾かれたように叫びながら、全力で自分の手を後ろへと引っ込めた。
すると響くんは、大袈裟に目を見開いてショックを受けたように自分の胸を手で押さえ、ドラマの悲劇の主人公のような仕草をしてみせた。
「おやおや、恥ずかしがり屋の照れ屋さんなんだね? でもね、そういうピュアで初々しい反応も、僕の芸術的インスピレーションを激しく刺激するよ。いいかい? あんな陰気で薬品臭いメガネ男のところにいても、キミの美しい人生はちっとも輝かない。僕のピアノの腕前は世界一だけど、キミの生涯の特等席は、僕の隣(ピアノの椅子)だけさ。ほら、他のやつらの雑音なんて忘れて、僕の奏でる演奏だけを聴いて?」
響くんはウインクをしながら、甘くとろけるような笑顔を私に投げかけてくる。そのあまりの破壊力に、私の心臓は別の意味で破裂しそうになっていた。
「チッ……相変わらず耳障りで不快な男だな、音楽室のナルシストが。僕の貴重な研究対象に、その汚い手で勝手に触れるなと言ったはずだ」
背後にいた蓮くんが、氷のように冷たい声で激しく舌打ちをした。彼は不機嫌そうに端正な眉をひそめると、白衣のポケットから、何やら怪しげな青い液体が並々と注がれた一本の試験管を取り出した。メガネの奥にある彼の瞳が、実験動物を冷酷に処分するかのような、冷たい光を帯びて響くんを睨みつける。
「おや、科学の非力な力で、僕の高尚な芸術を邪魔する気かい? いいよ、受けて立つよ、蓮」
響くんもその挑発を正面から受け止め、不敵な笑みを崩さないまま、右手の指をパチンと鋭く鳴らした。
その瞬間だった。どこにスピーカーがあるわけでもないのに、まるで頭の中に直接流れ込んでくるかのような、激しくも美しいピアノの重厚な旋律が、静かな理科室の中に鳴り響いた。その音楽の波動のせいか、室内の空気がビリビリと肌を刺すように震え始める。
(な、なんなのこの人たち……!? 精霊って……私、これからどうなっちゃうの!?)
息をのむほど整った二人の美少年に挟まれ、空間の真ん中で凄まじい視線の火花がバチバチと散る中で、私は完全に置いてけぼりになっていた。恐怖と困惑で涙目になりながらも、二人が睨み合い、その魔力を高め合うたびに、私の制服のポケットの中にある『真鍮の鍵』が、まるで警告を発するようにどんどん熱くなり、ドクドクと激しい脈動を強めていくのが分かった。
「あの……二人とも、ケンカはやめてください……っ!」
このままでは理科室が壊れてしまうかもしれない。そう思った私は、恐怖を押し殺して、勇気を振り絞って二人の間に割って入るように声をあげた。
――その、まさに刹那だった。
夕日の影が落ちる理科室の床の隙間から、どろりとした、タールのような不気味な黒い霧が、意思を持っているかのようにウネウネと湧き出し始めたのだ。
「――え?」
床を這うその黒いモヤは、明らかに普通の煙ではない。冷酷な悪意を放ちながら、まっすぐに私の方へと触手を伸ばすようにして急速に迫ってくる。それに伴い、理科室の温度が急激に下がり、吐く息が白くなるほどの極寒が部屋を支配した。
「紬、危ない!」
「下がって、子猫ちゃん!」
それまでいがみ合っていた蓮くんと響くんの顔つきが、一瞬でプロの戦士のような真剣なものへと変わった。
蓮くんが電光石火の速さで私の前に立ち塞がり、手にした試験管の青い液体を、床を這う黒い霧に向けて容赦なく投げつけた。パァンと激しい破裂音がして、実験台の上に白い化学反応の煙が立ち込め、一時は霧の侵入を拒んだかのように見えた。
しかし、その不気味な黒い霧は、彼らの防衛を嘲笑うかのようにさらに勢いを増し、質量を持った闇となって、私を完全に包み込もうと取り囲んでいく。
(うそ……足がすくんで、動かない……!)
見たこともない怪異への圧倒的な恐怖で、私の身体はまるで金縛りにあったかのように硬直してしまった。一歩後ろに下がりたいのに、床に足が張り付いたようにびくともしない。
冷たい絶望の霧が、私の爪先から冷酷に捕らえようと這い上がってきた、まさにその瞬間――。