放課後、秘密の特別教室。〜イケメンな精霊たちは、私をあきらめない〜
黒い霧はまるで明確な意思を持っているかのように、生き物じみた動きでうねりながら、私の足元へとはい寄ってきた。冷たく粘り気のある闇が床を侵食していく光景に、私はただ圧倒される。蓮くんが投げつけた薬品の煙も、響くんが鳴らした目に見えない音の障壁も、その不気味な霧は何の抵抗もなくすり抜けてしまうのだ。科学の法則も、芸術の魔力も、すべてを無効化するような圧倒的な拒絶がそこにはあった。
「くそっ、物理的な干渉や簡易的な触媒じゃ、この濃度の『心の霧(モヤ)』は分解しきれないか……!」
蓮くんがチッと苦々しく舌打ちをし、美しい眉を強くひそめた。次の瞬間、彼の細い、けれど驚くほど力強い指先が私の右腕をがっしりと掴んで引っ張った。
「子猫ちゃん、こっちへ!」
すかさず響くんが私のもう片方の左手を掴み、二人で私を左右から挟み込むようにして、理科室の出口へと走り出す。二人の異なる、けれどどちらも心地よい香りと体温が同時に押し寄せ、私の頭はさらに混乱していく。だけど、現実は甘くなかった。自動的に大きな音を立てて閉まった理科室の引き戸の隙間からも、どろどろとした黒い霧が滝のように溢れ出してきて、私たちの退路を完全に塞いでしまったのだ。
(どうしよう、囲まれちゃう……! 何が起きているの!?)
私の心臓は壊れた早鐘のように激しく脈打つ。その恐怖に呼応するように、ポケットの中の古い鍵は、まるで火傷しそうなほど急激に熱くなっていった。布地越しにも伝わるその熱量は、私の胸の鼓動と完全にシンクロしながら、パァ、パァと激しく淡い青い光を明滅させていた。
『あいつ、ムカつく……』
『どうして私ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないの……』
『みんな消えちゃえばいいのに……』
霧の奥から、地を這うような、掠れた何人もの生徒たちの呪詛の声が聞こえてくる。それは、日々の学校生活の中で誰しもが心の底に澱のように溜め込んでいる、小さな不満や嫉妬、落胆、そしてドス黒い憎悪といった陰鬱な感情の塊そのものだった。その負の感情の津波が、私の精神をも侵食しようと頭の中に直接響いてくる。
「まずいね。今日の昼間、一年生のクラスで大きなトラブルがあっただろう? あの爆発した負のエネルギーが、この古い旧館の霊的な共鳴を呼び起こして増幅してしまったんだ」
響くんがいつもの余裕たっぷりな表情を完全に消し去り、険しい顔で私を背中に隠すようにして立ちはだかった。彼の背中が、小さく震える私を必死に守ろうとしてくれているのが伝わってくる。
「おい、マスター。お前が持っているその鍵だ。それを強く握りしめて、僕たちの名前を呼べ。そうすれば、お前の魔力を通じて僕らの真の力が解放される!」
蓮くんがメガネの位置を中指で直しながら、焦燥を含んだ鋭い声で私に指示を出す。
「えっ、名前って……蓮くんと、響くん!?」
私がパニックになりながら、狂ったように熱い鍵を両手で強く握りしめ、二人の名前を叫んだその瞬間だった。鍵から目も眩むような鮮やかなエメラルドグリーンと青の混ざり合った光が爆発的に放たれ、二人の体がまばゆい光の粒子に包まれた。
「フッ、実験開始だ。最高効率で片付ける」
蓮くんの白衣が暴風に煽られたように大きく翻り、彼の周囲の空間に、幾何学的で美しい無数の光る数式や元素記号がホログラムのように浮かび上がる。
「音楽室の、お前の安っぽい旋律で、まずはこの霧の分子運動を拘束しろ」
「言われなくても! ボクの美しい調べで、この醜いノイズを完璧に調和してあげるよ!」
響くんが虚空に向けて華麗に両手を広げると、光の粒子で構成された巨大なグランドピアノの鍵盤が宙に出現した。彼がその見えない鍵盤に激しく指を躍らせると、理科室全体に、激しくもどこか神聖なフォルテッシモの旋律が鳴り響く。
その音の波動が、目に見える衝撃波となって黒い霧を激しく叩きつけ、その動きをピタリと凍りつかせた。すかさず蓮くんが、周囲に浮かび上がった光の数式を指先で鋭く弾き、霧の核へと次々に打ち込んでいく。
「ターゲットの不飽和結合を強制切断――消え失せろ、不確定要素!」
二人の息の合った、けれどどこかお互いに激しく反発し合っている、科学と芸術 of 融合攻撃によって、黒い霧の大部分が、光の塵となって音を立てて消滅していった。
(やった……の?)
私がホッと胸をなでおろしたのも束の間、完全に消滅しきっていなかった残りの霧が、怨念を凝縮させるようにして、さらにドス黒い一筋の槍のような塊へと変化した。反映して、今度は二人の防壁を潜り抜け、凄まじい速度で私個人を目がけて突進してきたのだ。二人は先ほどの全力攻撃を放った直後の体勢であり、私の方へ戻るのがどうしても一歩遅れる。
「しまっ――」
「紬ちゃん!!」
二人の悲痛な叫びが響く。迫り来る圧倒的な闇の圧迫感に、私は抗う術もなく、思わずぎゅっと目を瞑った。身構える私。しかし、いつまで経っても冷たい衝撃は来なかった。
「――騒々しいね。旧館の最果てにある図書室(僕の部屋)まで、その下品で耳障りなノイズが響いていたよ」
静かで、どこか眠たげで、けれど深く、優しく鼓膜の奥深くにまで染み渡るような、不思議な低い声が理科室に響き渡った。
「くそっ、物理的な干渉や簡易的な触媒じゃ、この濃度の『心の霧(モヤ)』は分解しきれないか……!」
蓮くんがチッと苦々しく舌打ちをし、美しい眉を強くひそめた。次の瞬間、彼の細い、けれど驚くほど力強い指先が私の右腕をがっしりと掴んで引っ張った。
「子猫ちゃん、こっちへ!」
すかさず響くんが私のもう片方の左手を掴み、二人で私を左右から挟み込むようにして、理科室の出口へと走り出す。二人の異なる、けれどどちらも心地よい香りと体温が同時に押し寄せ、私の頭はさらに混乱していく。だけど、現実は甘くなかった。自動的に大きな音を立てて閉まった理科室の引き戸の隙間からも、どろどろとした黒い霧が滝のように溢れ出してきて、私たちの退路を完全に塞いでしまったのだ。
(どうしよう、囲まれちゃう……! 何が起きているの!?)
私の心臓は壊れた早鐘のように激しく脈打つ。その恐怖に呼応するように、ポケットの中の古い鍵は、まるで火傷しそうなほど急激に熱くなっていった。布地越しにも伝わるその熱量は、私の胸の鼓動と完全にシンクロしながら、パァ、パァと激しく淡い青い光を明滅させていた。
『あいつ、ムカつく……』
『どうして私ばっかり、こんな目に遭わなきゃいけないの……』
『みんな消えちゃえばいいのに……』
霧の奥から、地を這うような、掠れた何人もの生徒たちの呪詛の声が聞こえてくる。それは、日々の学校生活の中で誰しもが心の底に澱のように溜め込んでいる、小さな不満や嫉妬、落胆、そしてドス黒い憎悪といった陰鬱な感情の塊そのものだった。その負の感情の津波が、私の精神をも侵食しようと頭の中に直接響いてくる。
「まずいね。今日の昼間、一年生のクラスで大きなトラブルがあっただろう? あの爆発した負のエネルギーが、この古い旧館の霊的な共鳴を呼び起こして増幅してしまったんだ」
響くんがいつもの余裕たっぷりな表情を完全に消し去り、険しい顔で私を背中に隠すようにして立ちはだかった。彼の背中が、小さく震える私を必死に守ろうとしてくれているのが伝わってくる。
「おい、マスター。お前が持っているその鍵だ。それを強く握りしめて、僕たちの名前を呼べ。そうすれば、お前の魔力を通じて僕らの真の力が解放される!」
蓮くんがメガネの位置を中指で直しながら、焦燥を含んだ鋭い声で私に指示を出す。
「えっ、名前って……蓮くんと、響くん!?」
私がパニックになりながら、狂ったように熱い鍵を両手で強く握りしめ、二人の名前を叫んだその瞬間だった。鍵から目も眩むような鮮やかなエメラルドグリーンと青の混ざり合った光が爆発的に放たれ、二人の体がまばゆい光の粒子に包まれた。
「フッ、実験開始だ。最高効率で片付ける」
蓮くんの白衣が暴風に煽られたように大きく翻り、彼の周囲の空間に、幾何学的で美しい無数の光る数式や元素記号がホログラムのように浮かび上がる。
「音楽室の、お前の安っぽい旋律で、まずはこの霧の分子運動を拘束しろ」
「言われなくても! ボクの美しい調べで、この醜いノイズを完璧に調和してあげるよ!」
響くんが虚空に向けて華麗に両手を広げると、光の粒子で構成された巨大なグランドピアノの鍵盤が宙に出現した。彼がその見えない鍵盤に激しく指を躍らせると、理科室全体に、激しくもどこか神聖なフォルテッシモの旋律が鳴り響く。
その音の波動が、目に見える衝撃波となって黒い霧を激しく叩きつけ、その動きをピタリと凍りつかせた。すかさず蓮くんが、周囲に浮かび上がった光の数式を指先で鋭く弾き、霧の核へと次々に打ち込んでいく。
「ターゲットの不飽和結合を強制切断――消え失せろ、不確定要素!」
二人の息の合った、けれどどこかお互いに激しく反発し合っている、科学と芸術 of 融合攻撃によって、黒い霧の大部分が、光の塵となって音を立てて消滅していった。
(やった……の?)
私がホッと胸をなでおろしたのも束の間、完全に消滅しきっていなかった残りの霧が、怨念を凝縮させるようにして、さらにドス黒い一筋の槍のような塊へと変化した。反映して、今度は二人の防壁を潜り抜け、凄まじい速度で私個人を目がけて突進してきたのだ。二人は先ほどの全力攻撃を放った直後の体勢であり、私の方へ戻るのがどうしても一歩遅れる。
「しまっ――」
「紬ちゃん!!」
二人の悲痛な叫びが響く。迫り来る圧倒的な闇の圧迫感に、私は抗う術もなく、思わずぎゅっと目を瞑った。身構える私。しかし、いつまで経っても冷たい衝撃は来なかった。
「――騒々しいね。旧館の最果てにある図書室(僕の部屋)まで、その下品で耳障りなノイズが響いていたよ」
静かで、どこか眠たげで、けれど深く、優しく鼓膜の奥深くにまで染み渡るような、不思議な低い声が理科室に響き渡った。