ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
泣き腫らした私たちの目は赤く膨れていた。
「それで、渚央ちゃん……、転校はしなくていいのよね?」
母が恥ずかしそうに、コホンと咳払いをしてから確認してきた。
「したくないです。先生も友達も好きだから」
私は本心だけを口にした。
もう、顔色を窺うのは、ナシ!
……だってそれが家族でしょう?
「部活も頑張りたいです。あと、体育祭でリレーのメンバーにもなってるし、修学旅行だって楽しみです」
修学旅行は行かないつもりだった。
積み立ては、母がいろはの分と一緒にしてくれていると知っていたけれど、それに甘えたら嫌われてしまうだろうから、辞退しようと決めていた。
「お土産買いたいです。お小遣いください!」
私はわざと要求した。
ふたりが声を立てて笑ってくれた。
そこからも私は喋りつづけた。
止まらない私の話を、ふたりは目を細めて聞いてくれた。
会話が止まったタイミングで私たちは腰を上げた。
陸の家に泊めてもらうつもりだったが、両親が迎えに来てくれたから帰ることにした。
階段を下りていくと、一階から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「――あ、翔樹だ。どうしたの」
翔樹が陸と話していた。
私を見たら慌てて寄ってきた。
「大丈夫か、渚央」
……そうか、心配して迎えに来てくれたんだ。
私は鼻先を指で擦って、照れてにやけた顔をごかました。
「誤解は? 解けた?」
翔樹は落ち着かない様子で私の目の奥を覗き込んだ。
「もう大丈夫」
たっぷりと言った。
翔樹がどれほど私に時間も心も砕いているか分かっている。家族は皆、私も含めて、必死じゃない人なんていない。
「言いたいこと言ったの。お父さんもお母さんも、謝ってくれた。だからもう大丈夫だよ、翔樹!」