ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
 
  *

 次の日から、いろははまた学校を休んだ。
 部屋からも出てこなくなった。
 その間に私の部屋が蓮見家に用意された。
 物置になっていた部屋だったが、片付けたらとても綺麗で、十分だった。


  *

「ベッドが欲しいです!」
 私は要求した。
 図々しいことはもう隠さないことにした。この性格は、翔樹と"おそろい"だし。
「ベッド憧れなんです」
「分かったわ」
「すぐに買いに行こう」
 父も母も、私が我儘を言うことが嬉しいみたいで、いつも柔らかい表情になる。
 
 他にも、綺麗なドレッサーや本棚、勉強机にテーブル……
 いろんな家具が次々入ってきた。
 私の居場所が完成しつつあった。
 

  *

 ある日の夕方のこと。
 
 そっとひとり外へ出たいろはに、決意を持って近づいた。

 
 いろはは旅館の外周に足を向けた。
 客の散策路にもなっている整えられた小道を歩き、テマリシモツケが植えられている横の縁石に腰を下ろした。
 私が付いてきたことには気づいていたのだろう。その隣に座っても何も言わなかった。

 秋の虫音が四方から聞こえていた。
 鳥の地鳴りも近くにある。
 

「――明日は学校、行けそう?」
 静かに話しかけた。
 いろはは明後日の方を見ながら言った。
「どうかな」
「……」
 なんだか、ここ数日でいろはが急に大人になってしまった気がした。
 突っかかってこないなんて、いろはじゃないみたいだ。
 それだけいろんなことを考え続けたのだろう。
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