ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「もしかしたらこのまま行かないかも」
「え?」
「行かないまま、世間に私のことがバレて、ネットで晒されて、人生終わるかも」
「おおげさだよ」
そんなことで人生は終わらない。
本心から言ったが、いろはは暗い表情のままだった。
「周り、気にし過ぎじゃない?」
「はあ」
いろはは大きくため息をついた。
「あんたのメンタルどうなってんの」
図々しいってことか、と頭を掻いていると、いろはがあきらめたような口ぶりになった。
「そういえば、ママもたくましいもんね。やっぱりあんたはママの子供なんだ……」
なんと言ったらいいか分からなくなった。
少し前、母から聞かされた。
母も傷つけられた子供だったって。自分と重なって、私を放っておけずに蓮見家に連れてきたって。
「あの人――、あ、私の父親だって言う人だけど」
「……うん」
「初めて会ったのに、なんか知ってる人みたいで。あーこういうことね、って」
外見や雰囲気に自分との共通点があったのだろうか。
その表情を覗こうと思ったけれど、いろはは膝に顔を埋めてしまった。
「なんか、あきらめ? そんな気持ちになったんだよね」
くぐもった声が言う。
「あと――、ひとりじゃなかった、って気持ち……」
「……わかる」
私が、どんなに嫌われてもここを離れなかったのも、自分がひとりぼっちじゃないと感じていたかったからだ。
「あのさっ」
私は空気を変えようと声を張った。
「知ってると思うけど、私、こっちの家に引っ越してきたよ。学校――、いろはが不安だったら一緒に行こう。あ、宿題も、一緒にやる?」
「……」
いろはは黙ったままだった。
沈黙と、ぬるい風が、私たちの間を行き来している。
私はじっといろはの呼吸に耳を澄ませる。
「あんたさ、私のことムカついてないの? あんなにイジメたのに。てか、家族だってあんたにひどかったじゃん」