ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

「もしかしたらこのまま行かないかも」
「え?」
「行かないまま、世間に私のことがバレて、ネットで晒されて、人生終わるかも」
「おおげさだよ」
 そんなことで人生は終わらない。
 本心から言ったが、いろはは暗い表情のままだった。
「周り、気にし過ぎじゃない?」

「はあ」
 いろはは大きくため息をついた。
「あんたのメンタルどうなってんの」
 図々しいってことか、と頭を掻いていると、いろはがあきらめたような口ぶりになった。

「そういえば、ママもたくましいもんね。やっぱりあんたはママの子供なんだ……」
 なんと言ったらいいか分からなくなった。
 少し前、母から聞かされた。
 母も傷つけられた子供だったって。自分と重なって、私を放っておけずに蓮見家に連れてきたって。
 
「あの人――、あ、私の父親だって言う人だけど」
「……うん」
「初めて会ったのに、なんか知ってる人みたいで。あーこういうことね、って」
 外見や雰囲気に自分との共通点があったのだろうか。
 その表情を覗こうと思ったけれど、いろはは膝に顔を埋めてしまった。
「なんか、あきらめ? そんな気持ちになったんだよね」
 くぐもった声が言う。
「あと――、ひとりじゃなかった、って気持ち……」
「……わかる」
 私が、どんなに嫌われてもここを離れなかったのも、自分がひとりぼっちじゃないと感じていたかったからだ。

「あのさっ」
 私は空気を変えようと声を張った。
「知ってると思うけど、私、こっちの家に引っ越してきたよ。学校――、いろはが不安だったら一緒に行こう。あ、宿題も、一緒にやる?」
「……」
 いろはは黙ったままだった。
 沈黙と、ぬるい風が、私たちの間を行き来している。
 私はじっといろはの呼吸に耳を澄ませる。
 
「あんたさ、私のことムカついてないの? あんなにイジメたのに。てか、家族だってあんたにひどかったじゃん」
< 104 / 110 >

この作品をシェア

pagetop