ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「まあ、そうだね」
そこは素直に認めた。
「でも私も、周りのこと、考えられてなかったし……」
家族は、私が視界に入るたびに誘拐された晴樹を想い、神経が逆撫でされたと思う。
「……だから、晴樹が戻ってきたあとで、会いに来ればよかったのかも」
そうすれば私との再会はもう少しはマシだった気がする。
――だけどそうしていたら、私は孤独に耐えられただろうか。
「……私には、わかんない」
またいろはは膝に顔を埋めた。
「でも、それは結果論だね」
私も答えた。――もしも、なんて意味ないし。
「私さ」
いろはが重そうに口を開いた。
「うん」
話しやすいように、相槌を打った。
「生まれた時からなんでも出来なきゃいけなかった。有名な老舗旅館に生まれた、ひとり娘だから」
……そうだろうね。
「けど、この家で私だけ、運動もダメ、勉強もダメ、体も丈夫じゃない」
いろはは自虐的に言ってから、肩の力を抜いた。
「けど、そもそもで私はパパやママからなにも受け継いでなかったんじゃん。……ショック受けなきゃいけないのにさ、私、ようやく息がつけた……、それなら、出来なくてもしょうがないじゃんって」
「……」
私から見れば、いろはが身につけた上品さ――みたいなものは、誰も真似できないのにと思う。
だけどうまく説明できそうにないから、冗談みたいに言った。
「なに言ってんのよ、どこからみても"お嬢様"のくせに」
……なんで私は、いろはを慰めているのかな、と頭の中で首を捻っているけれど、いろはに元気がないと調子が狂ってしまうのだ。
「それに、いろはのママもキレイだったよ。髪もいろはと同じ、サラサラで」
いろはが無意識に自分の髪を触った。
なにかを考えているようだった。
「……あんたは、その人のこと恨んでないわけ?」