ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

「――勝手に自分の子供にされて、勝手に捨てられてさ」
 いろはが、ひとりごとみたいに言った。

「恨んでるなんて言葉じゃ足らないよ」
 だから私も、自分の内側に向かって答えた。

 そう。
 簡単に言葉に出来る感情じゃない。
 ……ママを思うと、悲鳴を上げたくなる。恨み、怒り、寂しさ、悔しさ――そして、恋しさ。

「でも、生まれた時から私の母親だった。だから、また会いたかった……」
 あれ……?
 言葉にしたら、つつ――と、勝手に涙が頬を伝っていた。
 なぜ涙が出るのだろう。
 もう少し大人になれば……この感情が何かはっきりするのだろうか。
 今は分からなくとも。
 
「――はあ」
 いろはが隣で大きな息を吐いた。
「なんだかなあ」
 急に大人みたいに嘆いたいろはに、私は涙を拭いながら笑った。
「だよね。なんだかなあ(・・・・・・)」

 私たちの間にまた静寂がやってきた。


「――――ご……」
「!」
 消え入りそうないろはの声が、暗くなっていく空に吸い込まれた。
 たぶん、「ご」の続きは「めん」だろう。
 これが、いろはの精一杯なのかもしれない。
 
「もう、戻ろう!」
 私は立ちあがって、いろはを促した。
 返事はなかった。
 けれど重そうな足どりで、私の後ろをついてきた。

 私たちは、ぎこちないながらも、家族になろうとしていた。


   
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