ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
客たちが、ちらほらと大広間に集まり出している。
金魚すくいや輪投げなどのゲームコーナーでは家族客が楽しんでいる。
大広間の床には養生シートと毛氈が敷かれた。
私たちは半切にふたりで文字を書く。
祖母に参加を打診されてから、陸と何度も話し合った。何を書くか、文字構成はどうするか。
初心者の私は大きな漢字の一文字を担当することにして、陸は短い言葉を添えることになった。
「陸、めっちゃ大変だ……」
「本当にそう思ってる?」
いや、本当はたいして思っていない。
バレている。
「でもしょうがないよね、上手な方が頑張らないと」
私が開き直って言うと、陸にじとっと睨まれた。
「なんか飲む?」
会場に着くと、いろはが寄ってきた。
あれからいろはは、変わった。
学校では今まで通り……というわけにはいかなくて、特にいろはの子分たちが真っ先に離れていった。私にした意地悪のあれこれを言いふらしながら。
あんなに怖がりだったいろはは、予想に反して弱音を吐かなかった。そのせいで私も、いろはの立場にしばらく気づかなかった。
「……しょうがない。あんたにしたことは本当のことだし」
――だから罰を受けることにしたんだ、と言っているように聞こえた。
マスコミは思ったほど騒がなかった。
私たちが未成年であることが倫理的に扱えない理由らしかった。
SNSでは好き勝手なことを言われているようだけど、私もいろはもスマホを与えられていないから見に行っていない。
「リボン、曲がってる」
いろはが、ひとつに結んだ私の髪を整え始める。
「ありがと」
後ろは見えないからありがたかった。
「渚央、楽しんでこいよ」
「練習したことは裏切らないから、大丈夫だ」
翔樹と大樹にも励まされる。……プレッシャーなんだけど。
「渚央お姉さん、かっこいい!」
晴樹のキラキラな目に和んだ。でもすぐに両親と祖父母の声援を受ける。
「……」
結局、緊張は高まってしまう。
――「準備オッケー?」
彩さんが近寄ってきた。
私たちが文字を披露した後は、大人も子供も参加できる書初め大会となる。彩さんはその作業班に入っている。
「オッケー……って言いたいところだけど、震えてるぅ」
私は小刻みに動く両手を彩さんに向けた。
彩さんは「あらら」と言った。
彩さんには、事後報告で境遇を伝えた。
さすがに驚いていたけれど、案外あっさり受け入れてくれた。ただ、他の仲居さんたちは今もずっと戸惑っている。「渚央ちゃんをこき使ったからだよ」と、彩さんはほくそ笑んでいて、私は笑うしかなかった。
司会者がマイクを握ってアイコンタクトを求めてきた。
私たちは慌てて半切の前まで進んだ。