ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

 ――渚央ちゃんって、ちょっとこの辺にいない美少女ですね。
 彩に初めて渚央を見せた日、言われた。
「舞さんっていうより若女将に似てる感じがする」
「!」
 舞はぎょっとした。
 彩が気づくなら、いつか他の誰かも気づくのでは?
 これから先もっと似てくるとしたら……。
 舞は、急きょ保育園を変えた。

 『お迎え』の時だけでも、自分の子、いろはと触れ合えた貴重な時間は、彩の一言のせいで奪われてしまった。腹が立って仕方がない。


「じゃあ、これ渚央ちゃんに」
 彩はバッグからリボンが巻かれた袋を出した。
「今日、渚央ちゃんのお誕生日ですよね」
「……覚えてたの?」
 たった一度しか言っていないのに、と舞は驚く。
「忘れられませんよ、あの地震の前日なんですから。まあ、いろはちゃんの方が当日ですからアレですけどね」
 彩は言葉を濁した。
「ふたりとも生命力の強さを感じますよね」
「ふふ」
 曖昧に笑ってごまかした。

「若女将のところに行ってくるね」
 ロッカーに彩から貰ったプレゼントを入れ、代わりに大きな紙袋を取り出す。
「はーい、いってらっしゃい」
 彩に手を振って見送られ、軽やかな足取りで休憩室を後にした。
 ……あの子の誕生日は――別にいいよね、保育園でケーキが出るって言ってたし。

 彩に指摘されてから、「ママッ」と寄ってくる小さな両手を振り払うことが多くなっていた。確かに、成長と共に乙葉に似ているところの方が目に付いて、憎らしい気持ちを抑えられなくなっていた。
 

「乙葉さーん、体の調子どう?」
 牡丹雪で濡れる足元を気にしながら、旅館との境界線にあるフェンスを押した。ナンテンの木の間を進み、摺りガラス越しの人影に声を掛けた。
 ほどなくドアが開いた。大きなお腹を突き出した乙葉が顔を出した。
「うん、なんとか」
 ……四人目だなんて、何考えてるのよ。
 舞は心の中で何度でも毒づく。
 
「一日早いけど、うちの子と『お揃い』のぬいぐるみよ」
 いろはにだけ誕生日プレゼントを用意した。"本当の誕生日"である今日、どうしても渡したかった。
「毎年ありがとうね」
 いろはは……、舞の子は、この蓮見家で何不自由なく大切に育てられ、惜しみない愛を注がれている。そのことが舞にとっての贖罪――のようなものに感じられた。

 「今回もこっちで産むの?」
 乙葉は里帰り出産をせず嫁ぎ先で産んでいる。
 乙葉はからからと笑った。
「お義母さんがよくしてくれるから、居心地がいいのよ」
 嫉妬心で歪みそうになる舞の頬に、乙葉は気づかない。
 子宝に恵まれて、夫婦仲も良く、裕福で、嫁姑問題もなく、老舗旅館の若女将――――どうして乙葉だけすべて持っているのだろう。
 ……だから、いいよね、ひとつぐらい、人生で思い通りにならないことが起きても。
 舞は自分だけの理屈を押し通した。

 
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