ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
十分ほど車を走らせるとナビの案内と共に店の看板が目に入った。
駐車場が見当たらず、奥まった場所に車を停めた。大きな柿の木が垂れ下がっていて、辺りは暗かった。
走って行って暖簾をくぐると、広くはない店内ですぐに直樹の姿をみつけた。
酔っぱらった直樹が、舞を見て手招きした。
「あれえ、舞ちゃんじゃん」
『舞ちゃん』と呼ばれた瞬間、甘い痺れが体中を駆け巡った。
「どしたあ。この店よく来るのお?」
舌が回っていない。
舞はレジで支払いを済ませ直樹の腕を掴んで促した。
「蓮見君、帰ろう」
「そだねえ」
直樹は千鳥足だ。
鍛えられた体躯が舞の肩にのしかかる。
車を停めた場所まで必死に引っ張っていき、なんとか助手席に乗せた。
舞は汗を拭った。
「蓮見君がこんなに酒癖が悪かったなんて知らなかったよ、ねえ蓮見く――」
「……ぅ」
直樹はくたっとシートに身を預けていた。目を閉じ、半開きの唇から息が漏れている。
舞は数秒、無防備な直樹をみつめた。
胸にせつなさが広がっていく。
「……蓮見君、は、すみ、く――直樹君……」
舞は、返事をしない直樹にじりじりと近づいた。酒の息が掛かるほどの距離で直樹を感じる。
「……ねえ、"直君"」
乙葉の口調を無意識になぞっていた。
次の瞬間、直樹の腕が背中に――、利き手が舞の後頭部に回った。
「っ!」
舞は直樹に口づけをされていた。
舌がすぐに口内に入ってきた。掻き回されるようなそれに舞の意識はとろけて揺れた。
……私、蓮見君と、今……、
「あっ」
直樹の手が慣れた感じで舞のシャツをたくしあげた。
舞はシートを倒した。外に出ていた足を助手席に滑り込ませ、ドアをしめた。
途端に熱気が車中に充満した。
舞は直樹のシャツのボタンに手を掛けた。
この日を、どんなに待ち焦がれただろう。
だが先の行為に進もうとした時、走行車のライトが通り過ぎた。
「――ちょ、あれ……? ――誰?」
舞の下からやけに冷静な低い声がした。