ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
第二章

2-1 流れた月日の上で



【第二章】



 翌日の早朝、
 家に“男の人”が来た。


  
 その人は、鍵が開いたままの玄関から母の名前を叫びながら飛び込んできて、私を見て硬い声で「お母さんは?」と聞いた。
 布団の上に座り込んでいた私は、その言葉に反応ができなかった。


「――失礼するよ」
 男の人は私の言葉を待たず部屋という部屋を開けて、階段も駆け上がった。
 その物々しい音に、私の現実は強引に動き出した――と同時に、頭の中が音を立ててぐわん、と捻じれた。
 “大変なことが起きている”
 母が私に浴びせた“真実”が、夢なんかじゃなかったと突きつけられて、私は震えずにはいられなかった。

 
「お母さんは、どこ?」
「……」 
 すべての部屋を確認し終えた男の人は、私の肩を揺すった。
 寝惚けていると勘違いしているのか、ひと際大きな声が言った。
「帰ってきた?」
「……」
 ……帰ってきた。……だけどすぐに出て行った、私を置いて。子供を、抱いて……、
 そう答えたいのに声が出なかった。母の残した言葉が『呪い』のように私を掴んでいた。
 
 男の人は、「お母さんが帰ってきたらすぐに『蓮見旅館』……いや、俺に連絡するように伝えて」と言って、書く物を探すために立ち上がった。その足はふらついていた。そして、顔や首筋に流れる汗――、のようなものを何度も拭っていた。
 この時は知らなかった。
 この“男の人”が蓮見旅館の専務で、私の『父』だなんて。
  
 
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