ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「来年は中学生になるんだから、ひとりで暮らせるでしょう」
伯母の言葉に、不安を隠して頷いた。
あの地獄の中にいるよりは、たぶんマシだろうと想像できたから。
「舞が戻ってきたら……と思って、家を処分しないでおいてよかったわ」
伯母は優しい言葉も視線も、かけてくれなくなった。
「生活費は送ってあげるけどお小遣いまでは無理だから、新聞配達でもなんでもして」
「はい」
私は逆らわなかった。
……この人とは血が繋がっていない。
――家族じゃない。
だからだろうか、伯母を憎む気持ちにはなれなかった。
伯母の息子のことは大嫌いだけれど、他人なのに生活費を送ってもらうことに罪の意識があった。
それからしばらくはひとりで暮らしていた。
もちろんそのことは内緒にして、伯母とも口裏を合わせて、『大人と暮らしているような』空気を装っていた。
伯母が学校の手続きをしてくれて、小学校にも戻れたし、中学校にも上がれそうだった。
――「義務教育中はうちが預かります」
女将になった乙葉さんが伯母に宣言したのは、私が中学生になる直前だった。
「生活費も送っていただかなくて結構です」
私がひとりで暮らしていることに気づかれてしまったのだ。
女将は感情的になって伯母に啖呵を切った。
我慢しようとしたけれど、涙がこぼれた。
縋りつきたかった。それができればどんなに良かっただろう……。
私は、女将と一緒に蓮見家へ向かった。
けれど専務と兄弟たちが猛反対した。
『晴樹を誘拐した親の子供』と一緒に暮らすなど考えられない、と。
私は、住み込みの仲居部屋で暮らすことになった。
本当の家族に目の敵にされても、伯母に世話になっていた頃より心は少し楽だった。
真実を明かせなくても、『私はこのうちの子供』だからごはんぐらいは食べさせてもらってもいいよね? と思っていたのかもしれない。
……振り返れば、その奥底にあった気持ちが、私を『図々しい子』にして、蓮見家の人たちにもっと嫌われる原因にもなったように思う。
音のない水面に墨汁が一滴落ちたような孤独感がいつも私のそばにあった。
私の感情は、真実を知った日からずっとモノクロのままだが、その感覚にも慣れてしまっていた。