ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「――ねえ、渚央ちゃん、前髪切ってあげようか?」
記憶の断片に傷ついていると、彩さんが私を覗き込むようにしていた。
「!」
私はとっさに腰を引いた。
「だ、大丈夫!」
「いつも思ってたけど、前見える? 勉強の邪魔じゃないの?」
「あっ、授業中はちゃんと、ピンで留めてるから……」
私はどきどきしながら、俯いた。
最初は、“私の目が大嫌い”な母に強要され、目元を隠していた。
前髪を切ることは許されなかったから、小さい頃はそのせいで何度も転んだ。でもそのうちに慣れてしまった。
そして今は――
女将と自分の目が似ていることに気付いている。
バレてはいけない。晴樹を……私の弟を、取り戻すまでは。
「そう?」
彩さんは無理強いしなかった。
「じゃ、買い物行ってきて。早く行かないと、指示が出てからじゃ“後出しじゃんけん”だからね」
彩さんは悪戯っぽく笑った。
「少しゆっくりしておいでね」
「……うん」
嫌味ではなく、心から私を案じてくれる言葉を素直に受け取った。
渡された『経費袋』を手に勝手口から自転車に乗る。一番近いスーパーへぐんぐんとペタルを漕ぐ。
――「渚央!」
買い物を終えて戻る途中、どこからか自分を呼ぶ男の子の声がした。
私は急ブレーキで自転車を止めた。乗ったまま声の方に顔を向ける。
「ごめん、ホームルーム終わんなくて」
目の前に小峰君がやってきた。