ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

「知ってる」 
 私は答えた。
 
「買い物?」
 小峰君は自転車のカゴに入っているティッシュペーパーに視線を向けた。
「うん。休憩室で使うやつ」
「そっか」
「……じゃ」
 私は片足をペダルに掛けた。
「あ」
 小峰君の声。
「えっと」
 首のあたりに手をやっている。無意識だろうけど。
「なんか私に話があるんだっけ?」
「高校行かないって、ホントか?」
「!」
 小峰君は唐突に踏み込んできた。 

「……」
 このことはまだ誰にも言っていない。進路指導でさらっと、担任に話しただけ。
 私は動揺を隠して聞いた。
「――それが、どうしたの」
「……やっぱり渚央のことだったのかよ」
「!」
 小峰君のそれで、探られた――と気づいた。
 簡単に引っかかってしまった自分に舌打ちしそうになった。 
 
「国の金で行けるかどうか、調べた?」
「……」
 私より思いつめた表情で小峰君は早口になった。
「市の補助とかは?」 
「とりあえず先のことは、いいの」
 その真剣さに気圧されて逃げるように答えた。
「先のことじゃないだろ」 
「高校は、後から行ってもいいし」
「後って?」
「落ち着いたら……?」
 小峰君は呆れたように地面に吐息を落とした。 
「通信だってフリースクールだって、選択肢あるだろ」 
「……」   
 はあ。
 あまりの正論に私は、溜息をつきたくなった。
 ……学校に行く以外のすべてに、いちいちお金が必要だって知ってる? 
 ――なんて、“お金持ちの子”に言っても仕方ないか。
 
 私は、小さく肩を揺らした。
  
 中学までしか、私は蓮見旅館に居られない。
 だけど、 
 母は“約束”してくれた。
 私が何も喋らなければ、十五歳になったら晴樹を返してくれると。
 そうなれば、私を縛りつけるものはなくなる。
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