ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「すぐに音を上げるか、もしくはずる賢く手を抜くかと。だがおまえはどちらもしなかった」
褒められた――と受け取るも、期待してはいけないと自分を戒めて、無難なことを口にした。
「あ、えっと、体力はあるので……」
「丈夫なことは大事なことだ」
大女将は少し口の端を上げた。
「私もおまえぐらいの年齢の頃は、父親に殴られながら必死に働いた」
「!」
「乙葉も同じような境遇でね――だからおまえを放ってはおけなかったのだろう」
「……」
大女将が濁したそれが気になる。けれど、もちろん我慢する。
「おまえはなにも悪くない。それは皆わかっている」
大女将の声は静かで、そして怒りを含んでいるみたいに聞こえた。
「辛い役割をさせて、すまないね」
私は、強く、左右に首を振った。
本当は、なにもかも打ち明けてしまいたい。
だけど……、
"どこかにいる"母が、約束を破る私を見ているんじゃないかと怖い……。
「そうだ、なにかあったな」
大女将がふいに目の前からいなくなり、すぐに戻ってきた。手には大きな化粧箱を持っている。
「貰い物だから遠慮することはない」
箱の中には手つかずのお菓子がぎっしり並んでいた。
「いいんですかっ?」
私は嬉しくて、叫ぶように聞いた。
「……」
「……」
一瞬、大女将としっかり目が合って――私は、慌てて視線を下げた。