ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「渚央、ちょっとおいで」
数日後、また大女将に呼ばれた。
私は促されるまま離れへついていった。
「お前に服を買ってきた。フリーサイズらしいが、不安だったら着てみるか?」
大女将が袋の中からするりと出したのは、ウエストにリボンがついたワンピースだった。上半身は白のノースリーブで、腰で切り替わりスカートは花柄だ。
……こんなきれいなの、着たことないよ。
受け取らずもじもじしていると、「うちで預かっているのに、あまりにもみずぼらしいのは問題だろう」と低い声のまま言われた。
「あとズボンとシャツも見繕ってもらった。いつも同じものばかり着ているからな」
「……」
胸がいっぱいで、言葉が出なかった。
「他にも足らないものがあったら遠慮しないで、お言い」
「……」
お礼を言わなきゃ……と思うのに、口を開いたら涙がこぼれそうで、どうしたらいいのか分からなくなる。
俯く私の目線から、大女将の足先が離れた。
遠くなる声で「そこに座ってなさい」と言われた。
言われるがままソファに座った。力が抜けていった。
大女将はすぐに戻ってきた。トレイにはグラスたっぷりに注がれたオレンジジュースと、生クリームいっぱいのプリンが乗っていた。
「食べてから戻りな」
「……」
遠慮しなくちゃいけないのに、私は小さな声で「……いただきます」と言っていた。
プリンに手を伸ばした。
……甘い
……美味しい
私は夢中になって食べた。そして目を閉じたまま、ジュースをぐびっと飲んだ。
「お義母さん、ちょっと失礼しますね」
ふいに足音と共に、旅館側から離れに入れる扉の向こうで女将の声がした。