ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「!」
 私はびっくりして両肩を上げた。
 それを横目で見ていた大女将が立ち上がり、部屋を出て行った。背後で襖が閉められる寸前、女将の足音が止まった。
「実はこれから学校に行かないといけなくて」
 女将の声がすぐ近くに聞こえる。
「夏休みなのにかい?」
「二学期が始まる前に、どうしても話しておきたいことがあるらしくて」
「なんだい。高校生にもなってまだ暴れてるのかい?」
「あ、いえ……翔樹ではなくて、いろはで」

「……」
 私は、いつ女将が部屋に入ってきてしまうかと心臓をバクバクさせながら、気配を殺して会話を聞いていた。

「あの引っ込み思案のおとなしいいろはが、何をしたんだい」
「……それが、いろはが、宿題や提出物を他の誰かにさせているらしい、と」
「!」
 私は思わず息を止めた。
「他の誰かって、まるでいろはがいじめでもしているみたいじゃないか。証拠でもあるのかい」
「そこまではわかりません……ただ、他にも、ちょっと気になる点があるとのことで」
 大女将も女将も声が戸惑っていた。
 
 私は生唾をのんだ。
 ……どれがバレたのだろう。
 文字は鉛筆で書いている。いろはがなぞって筆跡を消せば証拠は残らない。
 私はあれこれと考えた。だがいろはの代わりにやったものは数が多すぎて、なにが引っかかったのか思いつかない。

 どうしよう……
 いろはが私を庇うのは、私に利用価値があるからだ。
 それがなくなったら……
 目の前が暗くなった。
 
「とにかく、行ってきます。なので今日――」
「ああ、心配しなくていい」
「すみません」
 女将は去っていき、いつのまにか大女将が目の前に立っていた。

 私は、俯いたまま深くお辞儀をした。
「服を……ありがとうございました。大切に、着ます」
 そうして逃げるように、離れを後にした。
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