ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
?
私はその様子をじっと見守った。
……落とし物でもしたのかな?
第二駐車場から旅館の裏手へ入る道は舗装されていないし、夏に生い茂る雑草で通路も半分塞がれている。
しばらく何かを探していた専務は、腕の時計を見てから肩を落として去っていった。
……。
少し時間を空けて、静かに自転車を押した。
辺りには誰もいなかった。
私は自転車を指定の場所に停めてから引き返した。
専務がなにを落としたのか分からないけれど、きっと大切なものだろうと思った。
私の手が、無意識に雑草を掻き分けていた。
けれど、これと言ったものは見つからなかった。
流れる汗を拭ってから、腰に手を当てた。
四方に視線を這わせる。
ふと、人工池が目に入った。
……もしかして、あそこに落ちたんじゃないのかな?
地面ばかり探していたが、駐車場からの通路には小さな人工池がある。
観賞用だったのはずいぶん前のことらしいけど。
「……」
私は藻の張ったそこを凝視した。
水が濁っていてよく見えなかった。
転がっている長めの枝で池を掻き回してみた。引っかかっている気もするし、そうじゃない気もする。
水に濡れた枝の長さから、膝ぐらいの深さだと見当を付けた。
……恐る恐る、手を突っ込んでみた。
ちょっと、キモチワルイ……。
ええいっ、
目をつぶって、ぐるぐると回して探ってみる。
指先が硬いものに触れた気がした。
届かなかった。
仕方なく、サンダルを脱いで片足を突っ込んだ。そうして身を屈めて、“それ”を取った。
空に掲げてみた。
ペンみたいな、小型のライトだった。
……探してたのって、これかな?
私はシャツの裾でライトを拭いた。
「……ここに置いておけば、気づくよね?」
人工池の周りを飾る一番大きな岩の上に、そっと寝かせようとした時、背後から声がした。
「なにしてる」
「!」
その声は、専務だった。