ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
2-3 涙は果てない
言いようのない不安を抱えたまま、私はその日の手伝いを終えた。
夜はなかなか眠れなかった。
専務の軽蔑を含んだ冷えた声と鋭い目が、私の頭の中から消えてくれなかった。
……問題になったり、しないよね?
祈るように嫌な予感を振り払う。
だけど私の祈りは届かなかった。
*
――「渚央ちゃん、女将が話があるんだって」
お昼ごはんを食べ終えてほどなく、“遅番”の仲居さんが休憩室に伝えに来た。
そして部屋にいる仲居さんたちに向かって続けた。「だから渚央ちゃんの手伝いは、午後はナシだよ」
「えー、頼もうと思ってたことがあったのに」と不満が飛ぶ中、私の心臓は嫌な音を響かせていた。
午後の手伝いがない、ということは、それだけ長い話になる――ということだ。
「渚央ちゃん、大丈夫?」
隣に座っていた彩さんの声にはっとする。
「だ、大丈夫! なにかなあ、緊張するね」
いつものように心配ないよ、とだけ伝えたかったのに、不安が大きいせいで、普段は絶対に表に出さない本音まで無意識に付け加えてしまった。
……。
私は指先で唇を閉じた。
案の定、彩さんに不安を拾われてしまった。
「私も一緒に行ってあげようか?」
「えっ」
「誤解があったら大変じゃない。それでなくとも専務たちは渚央ちゃんをマイナスから見てるから」
「……」
彩さんは以前のトラブルのことを言っているのだ。
“私が壊したほうき”を、叱られたくないから隠した――と疑われた時のことを。
「――大丈夫! 行ってくる!」
勇気が湧いてきた。
……そうだ。誤解だもん、解けばいいんだ。
昨日もそうするべきだったんだ。
心を強く持って、立ち上がった。