ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
教室に戻ると友達が私を待っていた。
「振り返ったらいないからびっくりしたよ」
「ごめん、ごめん」
いろはたちに拘束されていたことは隠し、両手で拝んだ。
「いなくなる前に教えてよね」
「それは無理だわ」
友人のひとりが私の代わりに突っ込んでいる。
「あはは」
私も笑いながら――でも、後のことを考えてしまう。
……はあ、
どうせ『指導』と称してつねられるんだろうなあ。
まだ癒えない二の腕と太ももの痛みが訴えかけてくる。
……だから準備室で土下座して終わらせたかったのに。
勝手に助けに来た小峰君に、心の中で恨み言をぶつけた。
――いろはの攻撃には、“家族”とは違う理由があった。
両親も二人の兄も『事情』を知ってすぐに私に敵意を向けた。
いろはが私を許せない理由は『学校で目立ったから』らしい。
テストで良い点を取っても機嫌が悪くなる。
でもそれは仕方がないと思うのだ。私はいろはの宿題を代わりにやっている。それが予習や復習になってしまうから。
『あんたさ、本当に図太いよね。なんで泣かないの?』
いろはは事あるごとに言う。
だけども私の涙は枯れ果てて、いろはに何か言われたぐらいじゃ動じなくなった――あの頃とは違う。
思い出したくもないけれど、“あの頃”の私は泣いてばかりいた。
母がいなくなったこと、その母が『母』ではなかったこと、自分の本当の親が蓮見夫妻だったこと……。そして私がその秘密を話せば、母が晴樹をどこかへ捨ててしまうと脅したこと――
一度にいろんなことが降りかかってきて、子供だった私には抱えきれなかった。
失語症になり、しばらく言葉が出なくなった。
その間にも私の環境は目まぐるしく変わっていった。
*
校門で振り返って、いったん足を止めた。