ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「このお部屋です!」
私はせめて元気良くと、意識して口を動かした。
ふたりは部屋に入ると目配せをした。そして「ありがとう」と小袋を出した。
「!」
私に案内役をさせたのは、これを渡すためなんだと気づいた。
「だ、大丈夫です!」
私は当然断った。
貰うわけにはいかない。
「遠慮しないで」
「叱られます!」
「気が引けるなら、みんなでわけたらいいわ」
「おいおい、わけるほど入ってるのか」
「うふふふ」
笑い声があたたかい空気に乗って私を包む。
「どうぞ貰って」
「……」
手の中に小袋がぐいっと入ってきた。
心付けを断り続けてもいけない気がして、ためらいながら受け取った。あとでクッキーを買って、仲居さんたちに配ろう――、そう考えながら。
「そうだ。洗面所に椅子はあるかしら? 頼んでおいたんだけど」
「聞いておきます!」
私はお辞儀をして、襖を閉めた。
部屋を出て行こうとして、ふと足が止まる。
……みんな、忙しいかもしれないし、私が確認すればいいよね。
ドアノブから手を離し、足先を変えた。右に進んで一段上がれば洗面所だ。
椅子は確かにあって、ほっとする。
ついでに丁寧にタオルと備品を整える。
コンコン、とドアがノックされた。
「はーい」と奥さんが応える。
仲居さんが挨拶に来たのかもしれない。――と思ったそばから私の足は動かなくなった。専務の声が聞こえたからだ。
「すいません! お迎えに出られなくて!」
「!」
……どうしよう。
私は瞬時に緊張した。