ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「――……それで、帰国したら友達が集まってくれて、そこで山都さんと蓮見くんのことを聞いて」
いつのまにか会話は、母たちの話題に移っていた。
「驚いただろう」
大女将は静かに目を伏せた。
「ええ……まさか、って」
佳苗さんは苦しそうに顔を歪めて、首を左右に振った。
「だから私が知っていることは話さないとって」
「わざわざすまなかったね」
「いえ……」
ふたりは少し黙った。
リビングには窓を閉めていても、庭園の岩肌を伝う水音が柔らかく響いている。
「渚央」
大女将が慎重な声色を向けた。
私は前髪の間から大女将に視線を合わせた。
「自分の父親のことを知りたくはないか」
「……」
私は思わず、目を泳がせた。
……私の、父親って、専務のこと……
そう思った直後、自分の勘違いに気付いた。
佳苗さんが思い出したのは、いろはの父親のことだ。
「当時、警察も携帯から辿ろうとしたらしいが、年数が経ちすぎていて難しかった」
「そうです、よね」
知っている。
――ひとりで産んだせいで、恥ずかしくって誰にも会えやしない……。
母の恨み言を何度も聞いた。
恋人との結婚が白紙になり、交友関係を断ったのだ。
「こっちに戻って連絡したのは佳苗だけだったようだ」
佳苗さんが首を竦めた。
「私にも言いたくなかったと思いますよ。でも出産の時期も迫って、事情を話さなきゃ受け入れてもらえないと思ったんでしょうね」
「これでようやく渚央の父親に行き着くことができるな」
大女将は安堵の表情になった。
「……」
背中をひんやりしたものが伝う。
――どう答えたらいい?
ここで「会いたい」と言わなければ不自然になる?
だけど自分の父親でもない人と会うことになったら話がややこしくなるんじゃ……。
それにもし私がその人に引き取られることになったら……。