ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
 
 私は子供の頃から小峰君が好きだった。

 市内の親子行事では、親が地元の有力者同士だったからいつも同じテーブルになった。
 恥ずかしくて話しかけられなかったけど、ずっと見ていた。
 その頃から小峰君は不愛想で、かっこよかった。
 

 中学生になって告白した。でも断られた。
 がっかりした。
 二年生になって同じクラスになれて、やっぱり運命の相手なんだと思った。
 なのに……。
 小峰君は渚央を助けて、私に陰険だと言った。
 友達が説明してなんとか小峰君の誤解は解けたけど、あの日は悔しくて恥ずかしくて、泣いてしまった。

 二学期が始まったら、渚央が小峰君と同じ部活に入った。
 それだけじゃない。
 渚央は、夏休みの間に祖父母の離れで暮らすようになっていた。
 ……は?
 意味がわからない。
 
 両親や兄たちが黙認していることも気に入らない。
 従兄妹たちと思う存分遊んだ、毎年恒例の楽しい夏休み。
 その余韻は渚央のせいで完全に消えてしまった。
 
 苛立ちを持て余していると母に話がある、と言われた。

 ――「いろは、宿題は自分でやるのよ」
 目が泳いでしまった。……バレたんだ。……渚央が、ばらしたんだ。

「難しい問題はママも手伝ってあげるから」
「だ、だいじょうぶ」
 必死に笑顔を作ろうとしたが、表情筋が動かなかった。
 
 思えば、家族もどことなく変わった。
 父は難しい顔をする日が増え、母は溜息ばかり。兄たちの口数も減っていた。そして祖母が私の名前を呼ばなくなった。
 
 ――きっと渚央が、あることないこと話したに違いないのだ。
 隙あらば周りの人間を自分の味方にする渚央のことが、心の底から憎かった。邪魔だった。
 
 だから今日、渚央をボイラー室に閉じ込めてやった。
 素早くドアを閉め、家にあった防犯用のつっぱり棒を当てがった。
 渚央は悲鳴のような声で「開けてっ」「開けてっ」と叫んでいたけど走って離れた。
 反省するまで開けてやらない。
 部活を辞めて、小峰君と一切喋らないと誓って、祖父母の離れから出て仲居部屋に戻ると約束するまでは、絶対に許してやらない。

 
    *
 
 渚央を懲らしめたことに満足し、裏口からそっと家の中へ戻ろうとした。
 だけどその裏口に警察官が数人立っていた。
 胸騒ぎを覚えつつ、仕方なく玄関へ回った。ドアが全開になっていた。
< 56 / 110 >

この作品をシェア

pagetop