ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
私は子供の頃から小峰君が好きだった。
市内の親子行事では、親が地元の有力者同士だったからいつも同じテーブルになった。
恥ずかしくて話しかけられなかったけど、ずっと見ていた。
その頃から小峰君は不愛想で、かっこよかった。
中学生になって告白した。でも断られた。
がっかりした。
二年生になって同じクラスになれて、やっぱり運命の相手なんだと思った。
なのに……。
小峰君は渚央を助けて、私に陰険だと言った。
友達が説明してなんとか小峰君の誤解は解けたけど、あの日は悔しくて恥ずかしくて、泣いてしまった。
二学期が始まったら、渚央が小峰君と同じ部活に入った。
それだけじゃない。
渚央は、夏休みの間に祖父母の離れで暮らすようになっていた。
……は?
意味がわからない。
両親や兄たちが黙認していることも気に入らない。
従兄妹たちと思う存分遊んだ、毎年恒例の楽しい夏休み。
その余韻は渚央のせいで完全に消えてしまった。
苛立ちを持て余していると母に話がある、と言われた。
――「いろは、宿題は自分でやるのよ」
目が泳いでしまった。……バレたんだ。……渚央が、ばらしたんだ。
「難しい問題はママも手伝ってあげるから」
「だ、だいじょうぶ」
必死に笑顔を作ろうとしたが、表情筋が動かなかった。
思えば、家族もどことなく変わった。
父は難しい顔をする日が増え、母は溜息ばかり。兄たちの口数も減っていた。そして祖母が私の名前を呼ばなくなった。
――きっと渚央が、あることないこと話したに違いないのだ。
隙あらば周りの人間を自分の味方にする渚央のことが、心の底から憎かった。邪魔だった。
だから今日、渚央をボイラー室に閉じ込めてやった。
素早くドアを閉め、家にあった防犯用のつっぱり棒を当てがった。
渚央は悲鳴のような声で「開けてっ」「開けてっ」と叫んでいたけど走って離れた。
反省するまで開けてやらない。
部活を辞めて、小峰君と一切喋らないと誓って、祖父母の離れから出て仲居部屋に戻ると約束するまでは、絶対に許してやらない。
*
渚央を懲らしめたことに満足し、裏口からそっと家の中へ戻ろうとした。
だけどその裏口に警察官が数人立っていた。
胸騒ぎを覚えつつ、仕方なく玄関へ回った。ドアが全開になっていた。