ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

「おかえりなさい……」
 私は震える声で言った。
 祖母は私を見るなり、いっそう目を潤ませた。縁はすでに赤い。
 今日はずっと泣いていたのかもしれない。いつも冷静で乱れない人なのに――と思ったら私の呼吸も苦しくなった。
 
「おまえは、私の孫だね?」
 祖母は私に答えを求めたけれど、確信している声だった。
「……本当、なのか」
 対照的に祖父はどうしたらいいか分からない様子だった。
 私は……声を絞り出した。
「黙っててごめんなさい」
「そんなことはいいっ」
 祖母が私の腕を掴んで揺すった。
「ただ……、どんなにつらかっただろうと思うと、私はね……」
 声を詰まらせる祖母に、私はぎゅっと唇を噛んだ。
 隣で祖父が呟くように言った。
「なにがなんだか……」
 祖母がふいに表情を引き締めた。
「これから直樹たちも来る」
「あ……」
 心臓が跳ね、緊張が高まった。目が泳いでしまう。
 
 祖母が、小刻みに震えながらもダイニングテーブルの上を片付け始めた。私も咄嗟に手伝う。
 祖母は一瞬動きを止め、潤んだ目で静かに笑った。
「おまえはいつでも働き者だな」
 その声色には今までとは違う温度があった。
「うちはみんな働き者だからなあ、似たんだなあ」
 祖父がしみじみと言って、その意味に触れて泣き笑いになった。頬のこわばりが、少し解けた。
 
 旅館側の玄関から遠慮気味な足音がした。
 張りつめた空気の中、両手を胸に抱えて目の前のドアが開くのを待った。

   
  *

「ここでいいか」
 泣き腫らした目でやってきた両親に、祖母がダイニングテーブルの椅子を勧めた。
「渚央もお座り」
 そうして全員が座ると、濃厚な沈黙がやってきた。
 壁時計の秒針が響いている。
 
「ごめんなさいっ、ごめ――、娘のことが分からないなんて――、ごめんなさい……」
 堰を切ったような、母の細く悲痛な声が部屋に満ちた。
 父はさらに項垂れ、肩を震わせている。
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