ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

「私が、言わなかったから……です。だから、大丈夫です」
 息苦しさを持ったまま、なんとか伝えた。
 私も謝ろうと決めていた。だがそれが果たされず、次の言葉を見失ってしまった。

「まずは、渚央から事情を聞いたらどうだ?」
 祖母の声も上擦っている。
 誰もが混乱と動揺の渦に飲み込まれている。それに気付いたら少しだけ心に静けさが戻ってきた。

「最初から……、話してみます」
 私は覚悟を込めて言った。
 いったん目を閉じ、"あの日"の光景を瞼の裏に映す。
 
「"あの日"、ママが男の子を抱いて帰ってきました……。そして私に言いました」
 言葉にし始めると流れるように取り出せた。

「私が、ママの子供じゃないと、言われました。――いろはと取り違えられたって」
「……ひっ」
 母が喉の奥から声を出した。
 項垂れていた父もいつのまにか切迫した表情で私を見ていた。
「そして、抱いている子が、私の弟で、この子を連れて行くと言いました」
 あの時、晴樹が眠っていたのか起きていたのか覚えていない。
 衝撃の告白に全部持っていかれてしまった。

「私が十五歳になったら弟を返すから、その時まで黙っていなさいと言われて」
 ただ、言葉だけは一字一句覚えている。
「話したら、弟をどこかに捨ててしまうと」
 言葉は呪いのように、私の心臓に深く刺さった。
 ――こんな小さな男の子が捨てられたら、生きていられるわけない。
 想像するまでもなかった。
 "私のせいで"、晴樹がこの世からいなくなったら、その罪は私のものだと思った。

「……そうか」
 祖母が額を抱えながら、絶え入るような声で言った。
「だからおまえは、言えなかったのだな。弟を取り戻すために……」
 私は重い頭で、こく、と頷いた。

 ……言ってしまった。
 抱えてきた秘密を、全部。
 私を縛っていたものが今、静かに離れていった。
 

「……どうして、そんなこと」
 母の声は掠れて聞こえにくかった。
「……俺たちの……娘が、入れ替わって……たって……」
 父も同じだった。握りしめた拳がテーブルまで震わせていた。
「俺たちは、あの女の子供を……、大切に育ててきたって、いうのか……?」
 両親の表情が、人間ではないみたいに歪んでいった。
 私はそれをただ見ているしかできなかった。
「こんなに近くに……、私の子……、どんな、想いで――」
 母の体が目の前でぐらんと大きく揺れた。
「直樹っ!」
 祖母が引きつった声で父の名を呼んだ。
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