ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
母の頭がテーブルに突っ伏す寸前、父が咄嗟に受け止めた。
「……」
私は浅い呼吸で椅子から立ち上がった。
椅子が後ろの戸棚に当たって鈍い音を立てた。
……ごめ、ごめんなさ……、
私は首を横に振った。
両親の驚きは心の奥で期待していたものだった。でも目の当たりにしたら、そんなことを願ってはいけなかったと思い知った。
……こんなことになるなんて。こんな絶望を与えてしまうなんて。
「今日はもうこの辺にしよう」
祖父が重い口を開いた。
父は項垂れたまま、なんとか意識を保とうとしている母を支えて歩き出した。
父が私の方を見た。
けれど目が合うことはなかった。――目を合わせることができないのだと、その崩れそうな表情から伝わってきた。
祖母が両親を玄関まで見送りに行って、私は祖父とふたりきりになった。
「大丈夫だ。心配することはないよ」
いつもの優しい笑顔は、言葉とは裏腹に翳っていた。
祖母は沈痛な表情のまま戻ってきた。
私は両手をぎゅうっと胸に抱いて、縋るように祖母を見た。
「あの、大丈夫でしょうか、……おふたり、は」
『お父さんとお母さんは』と頭の中では言えるのに、言葉にすることを躊躇った。
「晴樹くんは……」
そして母は……。
乾いた唇を無意識に触った。
知りたいことだらけだった。
「晴樹と警察が話してたことを教えてやっては?」
言い出せない私の様子に気付いたのか、祖父が先回りしてくれた。
祖母が頷いて、三人でまたダイニングテーブルを囲んで座った。静かなそこに、庭園からの水音だけが響いている。
「晴樹が言うには、『黎明縁』という山間の宗教施設で暮らしていたらしい」
「……」
私は浅い呼吸で椅子から立ち上がった。
椅子が後ろの戸棚に当たって鈍い音を立てた。
……ごめ、ごめんなさ……、
私は首を横に振った。
両親の驚きは心の奥で期待していたものだった。でも目の当たりにしたら、そんなことを願ってはいけなかったと思い知った。
……こんなことになるなんて。こんな絶望を与えてしまうなんて。
「今日はもうこの辺にしよう」
祖父が重い口を開いた。
父は項垂れたまま、なんとか意識を保とうとしている母を支えて歩き出した。
父が私の方を見た。
けれど目が合うことはなかった。――目を合わせることができないのだと、その崩れそうな表情から伝わってきた。
祖母が両親を玄関まで見送りに行って、私は祖父とふたりきりになった。
「大丈夫だ。心配することはないよ」
いつもの優しい笑顔は、言葉とは裏腹に翳っていた。
祖母は沈痛な表情のまま戻ってきた。
私は両手をぎゅうっと胸に抱いて、縋るように祖母を見た。
「あの、大丈夫でしょうか、……おふたり、は」
『お父さんとお母さんは』と頭の中では言えるのに、言葉にすることを躊躇った。
「晴樹くんは……」
そして母は……。
乾いた唇を無意識に触った。
知りたいことだらけだった。
「晴樹と警察が話してたことを教えてやっては?」
言い出せない私の様子に気付いたのか、祖父が先回りしてくれた。
祖母が頷いて、三人でまたダイニングテーブルを囲んで座った。静かなそこに、庭園からの水音だけが響いている。
「晴樹が言うには、『黎明縁』という山間の宗教施設で暮らしていたらしい」