ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜

4-2 真実の向こう側


 
 晴樹が戻ってきてから数日が経った。


 
 その間に両親は毎日私の元に来た。
「ごはんは食べてる?」
「眠れてる?」
「困ったことはない?」
 お互いに他に聞きたいことや言いたいことがあるはずなのに、当たり障りのない会話しかできなかった。両親の目はいつも赤くて、私も――、ふたりが帰ってから毎回泣いてしまった。


 
 ――「渚央お姉さん」
 柱の影から手招きする晴樹に、私はすり足で近寄った。
「晴樹。――って呼んでもいい?」
 呼び捨てにしてから、馴れ馴れしかったかなと、心配になった。
「うん!」
 晴樹は気にしてないようだった。

 マスコミが旅館の外にいるため、私たちは登校を見合わせていた。
 旅館も臨時休業した。
 そんな中で、私の足は誰もいない旅館へ向いていた。
 
「晴樹は探検中?」 
「うん! ここがぼくのうちなんて、ふしぎだなあ」
 大変な事件の当事者なのに、晴樹は無邪気だった。
「おうちではなにしてたの?」
「ごはんをいっぱいたべたよ」
「あとは?」
「パパとママといっしょにいたよ」
「晴樹が帰ってきて喜んだでしょう?」
「ずっとないてるし、ずっとわらってるよ」
 晴樹は明るい表情で言うが、両親と一緒に過ごしてどうだったかまでは言わない。
 私は異変に気付き始めていた。
「お兄ちゃんたちは?」
「あそんでくれた。あと、ごめんって」
「どうして?」
「ぼくがいなくなったとき、いっしょにいなかったからだって」
 晴樹はにこ、と笑った。
「……」
 冷えていく思考で晴樹を見た。
 晴樹はさっきから自分の感情を口にしていない。それは自然なことではない。
 私は晴樹の手を握った。
 その手を引いて、がらんとしたロビーに進み三人掛けのソファに座った。
 
「晴樹は何が好きなの? 好きなもの教えて」
 晴樹は嬉しそうに答えた。
「ぼくは『朝』がすきだよ」
 そしてうっとりしたように続けた。
「朝はきのうまでのすべてをゆるして光に変えてくれるんだよ」
「……許す? なにを?」
「なんでも! ぜんぶゆるすの」
 背筋が粟立った。
 宗教の教えが、幼い晴樹の内部に浸透している。
 ――それは"間違ってる"よ。赦しは……、そんなに簡単なものじゃないよ。
 心の中にその言葉を押し込んで晴樹の手をぎゅっと握った。

「私も朝が好きだよ。ここから新しく始まるから」
「そっかあ」
「だから晴樹の『今日』は、昨日と違っていいってこと」
「……」
 晴樹は少し困った顔を向けた。

「晴樹、あのね、気になることがあるならなんでも聞いていいんだよ」
 たまらずに言った。
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