ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
「気になるでしょう?」
私だって、聞きたいことだらけで悶々としている。なのに小さい晴樹が何も聞こうとしないなんて。
「どうして晴樹がお家以外で暮らすことになったのかとか、私が晴樹のお姉ちゃんなのに、あのお家にいないこととか」
「おしえてくれたよ、お母さんが」
「……なんて?」
「ぼくを連れて行かなきゃいけなかったって。それから渚央お姉さんは、ママの子供だけど、お母さんと暮らしてたって」
晴樹はまた、にこ、と笑った。
「っ」
私は奥歯にぐっと力を入れた。
それ、説明にも言い訳にもなってない……。
晴樹は気付いていないのだ。
「晴樹にとってお母さんってどんな人なの?」
声が揺れてしまう。だけど聞かずにいられなかった。母は"私を捨てて晴樹を選んだ"。どんな風に親子の時間を過ごしたのか知りたかった。
晴樹は晴れやかな顔を向けた。
「教祖さまが、お母さんは『ゆるされた光のそんざい』って言ってたよ」
「……」
突っ込みたいけど、我慢して話を戻した。
「お母さんは優しかった?」
晴樹はこくん、と頷いた。
だけど具体的な内容は出てこなかった。
もどかしさから聞き方を変えた。
「晴樹はお母さんをどう思ってたの?」
晴樹は考えるように虚空の一点を見ている。
「ときどき会う人だよ」
きちんと考えて出したであろうその答えに、私は戸惑う。
母は晴樹の親にはなれなかったのだろうか。
「あ、そうだ!」
晴樹は急に声をあげた。
「ぼく、お姉さんにお伝えしなきゃ」
「なにを……?」
「えっとね、お母さんが『あやまれなくてごめんね』って」
!
心臓が大きく跳ねた。
「『これからは幸せにね』って」
!
けれどすぐに不協和音となって体中を駆け巡った。
……なに、それ。
私にしたことへの『ごめんね』じゃなくて、謝れないことに『ごめんね』?
しかも『これからは』って……。
永遠の別れを前にたったそれだけが私に伝えるべき言葉だったのか……。
あまりに母が身勝手すぎて心の置き場がない。
「――ここにいたのか」
「!」
若い男の声にはっとする。
母への憤りと失望に胸が掻き乱されて、人の気配に気づかなかった。
私はとっさに立ち上がった。
条件反射みたいに目線を落としてしまう。
「翔樹お兄さん!」
晴樹が無邪気に呼びかけた。