ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
4-3 君のためにできること(翔樹)
***【翔樹・前編】
――何を間違えた?
離れの扉を閉めた瞬間、俺は必死に考えた。
渚央の、張りつけたような笑顔が頭から離れなかった。
兄が言った、「いろはが傷つけて、ごめん」が渚央を刺したことは分かった。
渚央の目があきらめたように冷えた瞬間を目の前で見ていたから。
そしてその目を、俺にも見せたと気づいた。
――どこだ。どこで見た?
俺は猛スピードで時間を辿った。
そして思い当たった。
いろはの性格が悪いことについて俺が「あんまり気になんなかった。妹だし」と言った後だった。
その時も渚央は笑って、それから胃のあたりを触っていた。
……だとしても腑に落ちない。
なぜ俺の言葉が渚央を悲しませたのか。
兄もいろはの代わりに謝っただけだ。
重い頭を押さえながら、必死に考えた。
「……翔樹、今日はありがとう」
隣を歩く兄は、ずっと思い悩んでいる。
「いろはのことは謝るべきだと思ってたから、言えてよかった……」
「ああ、うん」
応えてから、この言葉の何が引っかかるのか紐解こうとした。
兄が妹の不始末を詫びるなんて、家族だったら当たり前のことで。
……『妹』?
俺ははっとして顔を上げた。
……そうじゃないだろ。
ぞっとした。自分の鈍感さに。
俺たちは、『本当の妹』の前で、偽物の妹の横に立った。
それが無意識だったからこそ、渚央を追い詰めた。
「――――兄ちゃん、渚央の前でいろはを庇っちゃいけなかったんだ」
「庇ってなんかいない」
兄は神経質な声を向けた。俺は訴えた。
「いろはに代わって謝るって、そういうことだろ」
「なに?」
「だから! 渚央が妹なんだから、寄り添うだけでよかったんだよ! 辛かったなとか苦しかったよなとか……」
兄はまだ眉間を寄せて俺を見ていた。
俺は焦れた。
「いろはの代わりに謝ったら、渚央に『俺の妹はいろはの方だ』って言ってるのと同じだろう!」
「!」
ようやく自分の言葉の意味に気付き、兄は打たれたような顔になった。
重そうに、その頭を支えて呟く。
「……俺は余計なことを、言ったのか」
だが、項垂れていた兄はすぐに暗い目を俺に向けた。
「おまえだって、あの子に会うことを『努力』と言ったよな。あの子はその時も笑ってただろ」
「!」
兄の指摘に、頭に血が上った。
……そんなこと俺、言ったか?
乱暴に記憶を辿った。
そして思い出した。認めざるを得なかった。
……言った、……言ってしまった。
「けど、そんなつもりじゃっ」
俺は、兄と渚央をなんとか取り持とうと、ふたりのために言ったのだ。
兄も吐き捨てた。
「俺だってそうだ。そんなつもりで言ったんじゃないっ」
俺たちは睨み合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。
俺は渚央のために兄の言葉を咎め、兄も渚央のために俺を責めた。
そうやって互いの罪を暴いて、許されようとしていた。――渚央はここにいないのに。
兄が先に俺から目を逸らした。そして残酷なほどはっきりと言った。
「俺はいろはとは距離を置く」
――何を間違えた?
離れの扉を閉めた瞬間、俺は必死に考えた。
渚央の、張りつけたような笑顔が頭から離れなかった。
兄が言った、「いろはが傷つけて、ごめん」が渚央を刺したことは分かった。
渚央の目があきらめたように冷えた瞬間を目の前で見ていたから。
そしてその目を、俺にも見せたと気づいた。
――どこだ。どこで見た?
俺は猛スピードで時間を辿った。
そして思い当たった。
いろはの性格が悪いことについて俺が「あんまり気になんなかった。妹だし」と言った後だった。
その時も渚央は笑って、それから胃のあたりを触っていた。
……だとしても腑に落ちない。
なぜ俺の言葉が渚央を悲しませたのか。
兄もいろはの代わりに謝っただけだ。
重い頭を押さえながら、必死に考えた。
「……翔樹、今日はありがとう」
隣を歩く兄は、ずっと思い悩んでいる。
「いろはのことは謝るべきだと思ってたから、言えてよかった……」
「ああ、うん」
応えてから、この言葉の何が引っかかるのか紐解こうとした。
兄が妹の不始末を詫びるなんて、家族だったら当たり前のことで。
……『妹』?
俺ははっとして顔を上げた。
……そうじゃないだろ。
ぞっとした。自分の鈍感さに。
俺たちは、『本当の妹』の前で、偽物の妹の横に立った。
それが無意識だったからこそ、渚央を追い詰めた。
「――――兄ちゃん、渚央の前でいろはを庇っちゃいけなかったんだ」
「庇ってなんかいない」
兄は神経質な声を向けた。俺は訴えた。
「いろはに代わって謝るって、そういうことだろ」
「なに?」
「だから! 渚央が妹なんだから、寄り添うだけでよかったんだよ! 辛かったなとか苦しかったよなとか……」
兄はまだ眉間を寄せて俺を見ていた。
俺は焦れた。
「いろはの代わりに謝ったら、渚央に『俺の妹はいろはの方だ』って言ってるのと同じだろう!」
「!」
ようやく自分の言葉の意味に気付き、兄は打たれたような顔になった。
重そうに、その頭を支えて呟く。
「……俺は余計なことを、言ったのか」
だが、項垂れていた兄はすぐに暗い目を俺に向けた。
「おまえだって、あの子に会うことを『努力』と言ったよな。あの子はその時も笑ってただろ」
「!」
兄の指摘に、頭に血が上った。
……そんなこと俺、言ったか?
乱暴に記憶を辿った。
そして思い出した。認めざるを得なかった。
……言った、……言ってしまった。
「けど、そんなつもりじゃっ」
俺は、兄と渚央をなんとか取り持とうと、ふたりのために言ったのだ。
兄も吐き捨てた。
「俺だってそうだ。そんなつもりで言ったんじゃないっ」
俺たちは睨み合ったまま、荒い呼吸を繰り返した。
俺は渚央のために兄の言葉を咎め、兄も渚央のために俺を責めた。
そうやって互いの罪を暴いて、許されようとしていた。――渚央はここにいないのに。
兄が先に俺から目を逸らした。そして残酷なほどはっきりと言った。
「俺はいろはとは距離を置く」