ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
4-4 いらないのは、私だ
十日ぶりの学校はいつも通りに迎えてくれる友人たちと、正義感を盾に嫌悪や無関心を向けてくる生徒たちに二分されていた。
「渚央、前髪切ったね!」
「似合う! めっちゃ美人じゃん」
友達は口々に言って、私の前髪を交互に撫でたりわけたりして遊んだ。
――昨日、母に前髪を切ってもらった。
「明日から学校へ行くなら、髪を切る?」
母とは少しずつ、みつめあう時間が増えていた。
「――制服、ありがとうございました」
私は中学校の制服を作らなかった。
小学校の先生方が奔走してくれて、"おさがり"を貰えたからだ。他にもいろんなものを貰った。
「一ヶ月ぐらいかかるけど今度は、ちゃんと渚――、ぴったりだからね」
「……はい」
母は、私の名前をなかなか呼ばない。
でもそれは、私も同じだ。
私も母に「お母さん」と言えていないし、そもそもなんて呼べばいいのか分からないのだ。
「ママ」だと、私を育てた母が頭に浮かんでしまう。翔樹のように「母さん」はないな、と思うし。
自然な家族になるのは、本当に難しい。あきらめたくはないけど……。
――「そうだ! 伝言あったんだ」
友達のひとりが突然叫んだ。
「ああ、"あれ"ね」
別の友達も頷く。
なになにと耳を寄せると、「小峰君が何度も教室覗きに来てさ」とニヤニヤし始めた。
「いやいや違うよ? うちら友達だよ」
友人たちの意味深なそれを慌てて否定した。
「だってねえ、小峰君、渚央が来たら一番に自分のところに来て、って言ってたし」
そしてまたニヤニヤと笑い、肩を突いてきた。
「『一番に』だよ。わかった?」
「……」
微妙すぎる伝言に、時計を見る。
まだホームルームには早かった。
少し迷ったけれど、これ以上冷やかしの的にされても困るため、足を踏み出した。
ひらひらと振られる手、ガッツポーズ、敬礼――、いろんな手に見送られる。
「だから違うし!」
その場では唇を尖らせて離れたけれど、みんながいつも通りでとても嬉しかった。
……そういえば、誰にも何も聞かれなかったな、と気づく。
晴樹が帰ってきたことも、母が死んだことも、そして事件の真相が謎のままであることについても。
――母が死んで、
私たちには未消化の感情だけが残された。
子供の入れ替えが故意か事故か、誘拐した理由はなにか、この事件で人生がめちゃくちゃになった誰もが真実を知りたいと切実に願っていたのに、その死で永遠に知ることができなくなった。
「よっ」
私は隣のクラスに行き、廊下に視線を向けた無表情の陸に片手を上げた。