ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
陸が弾かれたように走ってきた。
「ずっとなにしてたんだよ」
「え」
目の前に来た陸が深刻な表情で詰め寄ってきた。
陸の肩越しに生徒たちの視線を浴びる。
合同授業で顔を合わせているとはいえ、私への反応はまちまちだ。
そしてこの教室にはいろはの子分たちがいる。
「……」
私は控えめに女子のグループを目で追った。
「連絡取れないから俺、翔樹先輩にメールして――」
「そうだったんだね」
答えながら、鋭い視線を飛ばしてくる子分たちに気を取られた。
「あのさ、後で話さない? ここはちょっと……」
陸は周囲の空気を察し、早口で言った。
「部活は?」
私は首を横に振った。
「しばらくは難しそう。家でも話し合うこといろいろあって」
「そうだよな。そっち居づらくないか? 大丈夫か?」
「あ、うん……」
陸の心配が、蓮見家での私の居場所だと気づき、隠し事をしていることが申し訳なくなった。
ふいに廊下に顔を向けると、いろはが歩いてくるのが見えた。
!
私は身構えた。
いろは昨日まで部屋から出てこなかった。だから登校するとは思っていなかった。
私たちに気づいたはずなのに、こっちを見ようともしない。
顔色は悪く、思いつめた表情で俯いている。
「……いろはちゃん、おはよう! 心配してたんだよ!」
いろはが教室に入るとみんなが寄ってきた。
そして、一斉に私を睨みつけた。
いろはがじっとしているから余計に、日常を取り戻した私との差が浮き彫りになった。
「ねえっ、なんで『加害者』のくせに堂々としてんの?」
ひとりの女子が口火を切って私を責めた。
「しかもわざわざうちのクラスに来てさっ」
友人たちに守られていたいろはが、はらはらと泣き出した。
それが免罪符みたいに女子たちがさらに攻撃してきた。
「いろはちゃんの弟が戻ってきたからってぜんぶ許されたと思ってんの?」
「よく学校来れるよね!」
「サイアク!」
次々に飛んでくる言葉の暴力に、私はなすすべなく打たれるしかなかった。
「――っざけんな」
陸が私の前に腕を出した。
陸は片頬を上げていた。いつか見た顔だった。――そうだ、いろはに体育館の準備室に押し込まれた時に見たのと同じ顔だ、と気付く。
「おまえらの方がよっぽどサイアクだわ」
いつも無口な陸の声はとても強く響いた。
「だれが加害者だよ。頭悪すぎ」
怒ると言葉が出てくるタイプだったんだ――と、陸を見る。
私のために感情的になってくれた陸に泣きそうになった。
「行こう」
陸が私の腕を取って教室の前から引き離してくれた。
私は逆らわず、身を委ねた。
直線の廊下を曲がってから、手が離れた。
「大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫」
――と答えたけれど、心が沈んでいた。
チャイムが鳴った。
私たちは耳を傾け、少し慌てる。
「――えっと、放課後だめなら、昼休み、ちょっと話そう」
陸が早口で言った。
「わかった」
「給食終わったら、部室で」
陸の提案に私は頷く。
そして、歩いてきた教師の手招きに従って、早足で教室へ戻った。