ひとつだけ違う朝〜誘拐犯の娘として虐げられた私が、本物の家族を取り戻すまで〜
*
その午前中は、授業に集中できなかった。
自分では解決できないことが多すぎるせいだった。
私といろはが入れ替わったことを公表するか、両親は決めかねている。
私たちが好奇の目に晒されることが心配だからだと言われた。
私も納得した。
でも、心の奥では引っかかるものがあった。
それがなにか、みんなに取り囲まれて文句を言われてやっと分かった。
事実を公表しない――それで守られるのは、たぶん私ではない。
「渚央、授業終わったよ」
「!」
結局四時限目まで、私は休み時間のたびに友達に肩を揺らされてようやく教科書とノートを閉じた。
今日の授業の内容はまったく頭に残っていなかった。
「はあ、お腹空いた! 今日の給食はなにかなあ」
献立は配られているのに友人たちは私のために場を明るくしようとしている。
涙腺が緩んだ。
「――あのねっ」
私は勢いのまま声を張った。
どんな状況の時でも態度を変えないみんなに――、家族が許してくれたらこの秘密を話したい。
「ずっと後になるかもしれないけど打ち明けたいことがある。そしたら、聞いてくれる?」
急に深刻なことを言い出した私に、みんなが顔を見合わせた。そして破顔する。
「聞く聞く!」
「絶対教えて!」
肩を抱かれ配膳の列に並ぶ。
「うん、いつかね、必ず……」
約束し、泣かないように俯いた。
昼休みの時間も残り半分――というところで教室を出た。
隣の教室を覗いて陸を誘う勇気はなかった。また絡まれて、嫌な思いはしたくなかった。
「――ちょっと」
「!」
回れ右で、階段を上がり始めたら聞き慣れた声が追いかけてきた。
いろはだった。